スプリント回数は圧巻の45回!松本の“韋駄天”前田大然が開幕戦で見せた驚愕のポテンシャル

2019年02月24日 大枝 令

「やっぱりFWなので点を取って勝ちたい。次は勝てるように頑張りたい」

前田はJ1初挑戦となった磐田戦でもノビノビとプレー。得点こそなかったが、自慢のスピードを存分に披露した。写真:茂木あきら(サッカーダイジェスト写真部)

 J1初挑戦の若武者が、いきなり驚異的な数字を叩き出した。松本が誇る韋駄天FW前田大然。磐田との開幕戦で2シャドーの一角として先発し、90分間ピッチを走り回った。45というスプリント回数はもちろん今節のトップで、昨季に照らし合わせても湘南の小川慶治朗(現・神戸)がマークしたシーズン1位の数字に並ぶ。初のJ1舞台だったが浮き足立つ様子は一切なく、試合後のミックスゾーンでも「誰にも負けないスピードがあるので、やれるという自信は始まる前からあった。まだ走れたと思う」と涼しい表情で振り返った。
 
 スプリントは時速24キロ以上でカウントされる。生来のスピードに恵まれている前田の場合、おそらくは全力でなくてもスプリントとして計測されるのだろう。「失うものはないので失敗してもいい。今年は去年と違って身体が動けているので楽しみだし、積極的に持ち味を出したい」。試合2日前の取材にそう語っていた通り、国内最高峰の舞台でも実にのびのびとプレーした。前線から2度、3度とチェイスしてボールを奪うのはもちろん、チームがボールを持てばすかさずスプリント。とりわけ、昨季も2シャドーを組んでいたセルジーニョとの相性は良く、14分と31分には裏への絶妙なパスを引き出してゴール前に迫っていた。
 
 あとは、肝心の初ゴールさえ決めれば波に乗れるだけのポテンシャルを秘める。そのために必要なのは、トップスピードに乗った状態でのプレー精度に尽きるだろう。今季の松本は「インテンシティー&クオリティー」(強度と質)をテーマに掲げており、前田はインテンシティーの象徴的存在だ。ただクオリティー向上の必要性は自身も痛感している様子で、キャンプ終盤には「インテンシティーだけではダメ。J1はクオリティーがしっかりしていて、それは僕にとってもチームにとっても課題」と力を込めていた。

 比類なきスプリント力は、前田のメンタルに揺るがない自信を吹き込む。これはプロ1年目から備えており、2016年に高卒ルーキーとして臨んだ新体制発表会では1人学ラン姿で登壇し、「東京オリンピックに出ます」と公言して一発芸を披露。「先輩イジり」も平然とやってのけ、そのやり取りはどちらが年上だかわからないほどだ。今季のキックオフカンファレンスではチームを代表して出席。イニエスタやフェルナンド・トーレスなど世界的スターと肩を並べて刺激になったか?と問われても「特に……」と苦笑まじりに首をかしげる。
 
 磐田の名波浩監督が試合後会見でその名を挙げたように、今後も前田は相手チームに徹底的に警戒されることだろう。試合は岩上祐三の技ありFKで得た先制点を生かせずドローに終わり、4年ぶりにJ1を戦う松本の初白星はお預けとなった。「やっぱりFWなので点を取って勝ちたい。次は勝てるように頑張りたい」。松本をJ1に留めるために、そして自らが東京五輪への切符を得るために。前田は緑色のつむじ風となり、ピッチを縦横無尽に駆け回る。
 
取材・文●大枝 令(スポーツライター)

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