アジアカップでも物議を醸したVAR判定への英国人記者の見解。“本場”イングランドでの反応は?

2019年02月03日 スティーブ・マッケンジー

日本も戸惑わせたVARシステム

日本のゴールが取り消されもしたVAR。審判によって基準も変わるこのシステムにスティーブ記者は異論を唱えた。 写真:茂木あきら(サッカーダイジェスト写真部)

 1日に行なわれたアジアカップ決勝の結果は、日本の皆さんにとって、残念であったと思う。ただ、カタールが初めて優勝を果たしたことは、それだけアジア全体のレベルが上がったことを意味するのだろうし、その事実はサッカー界全体にとっては良いことだと言える。

 さて、私がここで触れたいのは、ビデオ・ アシスタント・レフリー(VAR)についてだ。アジアカップでも準々決勝から導入され、その裁定が日本を含めたいくつかのチームを戸惑わせたと聞いている。

 私が住んでいるイングランドでは、今のところVARはFAカップ以外には実施されておらず、プレミアリーグでは来シーズンから導入される予定となっている。だが、その決定に対する反応は様々だ。

 実際、VARが実施されているFAカップでは、曖昧な基準が議論の的となることがある。確かに時代の流行に乗った最先端のシステムだが、フットボール・ファンの中には、変化が必ずしも良いと考えない人もいるのだ。

 アジアカップ準々決勝のベトナム戦でCKから吉田麻也が決めたヘディングシュートが取り消されたシーンを思い出してほしい。あの場面、得点が決まってから主審がVAR判定を導入するまでに数分を擁していた。
 

 これこそがVARに対して、いまだに多くの人々が毛嫌いし、フラストレーションを溜め込んでいる一因だろう。これがアメリカンスポーツのファンならば、MLBやNBAでビデオによるジャッジの解析システムが進んでいるため、じっくりと時間が掛かっても待つことができる。

 しかし、イングランドでは多くのファンが、最終的なジャッジが決まるまでの時間を「無駄だ」と捉えている。その間に試合の流れが変わると考えているからだ。かく言う私もVARの本格導入にはいささかの不満を持っている一人だ。

 確かにVARによってより正確な判定が下されるのはポジティブなことである。ただ、同時に試合後に仲間たちとジャッジを巡った議論を交わすことはなくなってしまう。それは、フットボールが文化として根付くこの国ではタブーに近い。ゆえに私も懐疑的な感情を抱いている。

 フットボール・ファンは、誰が良いプレーと悪いプレーをしたのかだけでなく、審判の判定についても意見をするものだが、その何気ない会話が減ることで、フットボールの文化が育まれるだろうか。

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