劣勢の鹿島を救った男。逆転劇の立役者、クォン・スンテが自身3度目のクラブW杯に思うこと

2018年12月16日 寺野典子

大事な大会になるほど、試合のことは考えない

前半の劣勢時にはビッグセーブを連発。守護神クォン・スンテがチームのピンチをたびたび救った。(C) Getty Images

 数々のピンチをそのセーブで防いできただけでなく、49分に決まった永木亮太の同点弾を演出したクォン・スンテ。自身3度目となるクラブワールドカップ出場は、苦しいスタートとなった。準々決勝で北中米カリブ代表のグアダラハラと対戦した鹿島アントラーズは、開始3分に失点してしまう。

「1回目の2006年の時は、すごく若かったですし、2016年の時は怪我で出場できなかったので、今回はプレッシャーを感じないまま楽しもうという気持ちで入りました。ただ自分たちの試合内容がよくなかったので、1失点してしまい、楽しむことができなかった。後半からは修正できてよかったです」

 先制弾で勢いづく相手の攻撃に対して最後の砦として立ちはだかったクォン・スンテには、「後半のことを考えるよりも、目の前の1本で仕事をする」というキーパーとしての矜持があった。その落ち着きと漲るオーラが彼のビッグセーブを生むに違いない。

「こういう大きい大会、大事な大会になればなるほど、試合のことはあまり考えないようにしています。そしてピッチに入り、ホイッスルが鳴った瞬間から集中しようと。試合前に『大事な試合』と考えすぎると、プレッシャーになり、ストレスになってしまう。2006年のACLの決勝前日は1時間しか眠れなかった。そういう若い頃の苦い経験を活かせるようになった。7、8年はかかりましたけど(笑)。結果は90分の中に出るので、その90分だけに集中してやろうと思っています」

 相手選手の分析も試合前ではなく、試合中に行なう。
「もちろん分析もしなくちゃいけないんですが、試合に入ってから分析しようと思っています。ACLの水原戦は相手との対戦経験もあり、試合前に分析してしまった結果、2失点した。それもまた良い経験になっている。難しい試合ほど、キーパーの基本に忠実でいなければいけない」
 
 試合終了間際にPKを決められてしまったが、3-2と勝利した。苦しい前半を耐え抜き、迎えた後半は、鹿島ペースで試合が進む。同点弾は49分という序盤の早い時間に決まったが、ゴールに至る一連の流れは、相手シュートをセーブしたのち、素早くボールを前線のセルジーニョに送った守護神のプレーからそれは始まっている。低い弾道のボールを足もとで受けたセルジーニョが土居聖真へ展開。土居がキープしたのちクロスを送ると、永木がそれ押し込んだ。

「ボールを持った瞬間にスペースが見えた。高く速いボールというよりも、セルジーニョの足元へ合わせようと思って蹴った。セルジーニョがスピードよりも身体の強さがあるので。セルジーニョなら、足もとで抑えてくれると信じて出しました」

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