【小宮良之の日本サッカー兵法書】 バルサ自体が苦労した「バルサ化」。日本で実現させるには…

2018年12月01日 小宮良之

無意識にボールと人が高精度で動く

バルサの中心選手と適任の指導者が到来したものの、「バルサ化」への道のりは長い。神戸のチャレンジの末に、どのようなチームが生まれるか!? (C) SOCCER DIGEST

「バルサのように攻撃的なサッカーを!」
 
 このような、夢に向かう「合い言葉」を、たびたび目や耳にする。ボール支配で上回り、パスを繋げ、何度もゴールに迫る。オフェンシブな時間が長いチームだろうか。
 
 しかし、バルサのように、というのは尊大に聞こえてしまう。
 
 バルサの最大のアドバンテージは、そのメカニズムにある。プレーモデルと表現してもいいだろう。こうなったら、こう動く。精度抜群のオートマチズムがあるのだ。
 
「ラ・マシア」といわれる下部組織では、長年にわたって同じプレーモデルを徹底してきた。いつ、どこで、どの角度でボールを受け、次のサポートに入って……という動きが連なる。その都度、選手たちの技術が高いのは言うまでもない。
 
 バルサで育つ選手たちは、オートマチズムを身につけてきている。選手たちが阿吽の呼吸でボールを繋ぐため、その緩急の変化は想像以上。敵に与えるスピード感覚は、尋常ではない。
 
「ピッチでは、信じられないくらい、彼らのパス回しは速いんだ」
 
 バルサと対戦したDFは、そう言って眉間に皺を寄せる。守りの態勢はできていたはずなのに、何もできない。渦になって攻めてくるような感覚に囚われる。それは、単なる速さではない。緩急がつく分、体感スピードはとんでもないものになるのだ。
 
 バルサのトップにいるジェラール・ピケ、セルジ・ロベルト、ジョルディ・アルバ、セルヒオ・ブスケッツ、リオネル・メッシは、いずれもラ・マシア組である。彼らはオートマチズムを理解し、高いレベルで実践できる。
 
 今夏にバルサを退団してヴィッセル神戸に入団したアンドレス・イニエスタは、そのスピード変化が変幻自在だった。それゆえ、不世出の選手といわれるのだ。
 
 バルサは、ほとんど無意識にボールと人が動くことで、先手を打てる。
 
 例えば、今シーズン序盤のレアル・マドリーは、絶対的なゴールゲッターだったクリスチアーノ・ロナウドが退団したことで、カウンター主体からポゼッションに移行。ボールを持つ時間は増えた。
 
 しかし、バルサとは同列には語れない。パスのオートマチズムは乏しく、個人の力量の高さの方が目立つ。例えば、攻撃の中心のイスコは、スモールスペースでの技術は突出しているものの、球離れの遅い選手だ。
 
 もっとも、バルサに似たチームがないわけではない。
 
 バルサで薫陶を受けたジョゼップ・グアルディオラが率いるマンチェスター・シティは、「バルサのような」という表現が当てはまるプレーを展開する。高いスキルの選手を集め、オートマチズムが浸透。「バルサ」を実現するのは、何もバルサだけではない。
 
 そもそもバルサ自体、近年はフィジカル重視の傾向を強めている。ラ・マシア組の影響力が薄くなりつつあり、このままいけば、彼ら自身もバルサらしさを失うかも知れない。
 
 Jリーグでは、イニエスタを擁し、過去にはバルサ監督の話もあった"グアルディオラの師匠"ファンマ・リージョを指揮官に迎えた神戸が、「バルサ化」を進めている。これ以上ないタッグは完成した。期待は高まる。
 
 しかし、その道のりは20年単位だろう。
 
 バルサでさえも、メッシの時代を創り出すには、それだけの時間がかかっているのだ。
 
文:小宮 良之
 
【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月には『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たした。
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