6戦未勝利という絶望スタートから頂点へ…粘り強くJ2を制した松本山雅FCの"底力"

2018年11月20日 大枝 令

大きなターニングポイントとなったのは、2度の大宮戦だった

キャプテンを務めた橋内(中央)は「今シーズン僕がキャプテンになって、もしかしたら一番勝てないチームを引き受けることになるのかなと思った」と振り返った。写真:徳原隆元

 岩上祐三の表情は曇っていた。
 パウリーニョは言葉を失っていた。
 浦田延尚は吐き気に見舞われていた。
 
 3月25日、維新みらいふスタジアム。J2リーグ6節のレノファ山口FC戦に臨んだ松本山雅FCは、2−0とリードして後半アディショナルタイムに突入した。だが6連続遠征という「死のロード」のラストでようやく今季初白星をつかみかけていた矢先、パワープレーに屈して2失点。あわや大逆転負けかというシーンもあってドローに終わり、リーグ22チームのうち唯一未勝利の20位となった。大型補強を敢行してスタートダッシュを切るはずが、予想だにしない滑り出し。「J1昇格」ましてや「J2優勝」などという威勢のよい旗印は、現実味の薄い空疎な言葉になりかけていた。
 
 試合後。本州の西端まで遠路はるばる駆け付けたサポーターに、橋内優也が深々と頭を下げた。今季からゲームキャプテンを任されているセンターバック。当時の心境について、「山雅はある程度J2では結果を残してきたのに、今シーズン僕がキャプテンになって、もしかしたら一番勝てないチームを引き受けることになるのかなと思った」と振り返る。
 
 まさにどん底。だがこの失意から立ち直ったとき、松本の「奇跡のV字回復」が幕を開けた。正確に表現するなら、「√字回復」だろうか。大きなターニングポイントとなったのは、2度の大宮アルディージャ戦だ。
 
 まずはホーム。どん底の状況で迎えた7節の大宮アルディージャ戦、石原崇兆のファインゴールを皮切りに3−0と大量リードを奪う。後半は2失点を食らったものの、逃げ切って待望の初白星。しかもそれを、初顔合わせとなったJ1降格組から挙げられたという事実が、松本に浮上のエネルギーを吹き込んだのだ。高崎寛之が「力のあるチームから勝点3を取れてよかった」と言えば、飯田真輝も「大宮を相手に勝てたというのは大きい。来週からまた自信を持って戦えると思う」と手応えを口にしていた。
 
 そこから順調に勝点を積み上げ、後半戦スタートのアルビレックス新潟戦で2−0として首位に浮上。そして25節、またしても転機が訪れる。アウェーの大宮戦だ。35分に一発退場者が出て数的不利となり、45+3分には先制弾を許して折り返した。ただでさえ格上のホームで、10対11で1点ビハインド。これ以上ない逆境だと言えた。
 

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