【小宮良之の日本サッカー兵法書】 育成環境ではなく「地域の特性」が名手を“量産”するケースも!

2018年11月02日 小宮良之

「硬い土」ではなく「砂浜」で育ったGKは…

代々、体躯の良い地域に生まれ、怪我の心配がない環境で技術を磨き、伝統競技で自然に鍛えられていく――。国レベルの組織よりも、育成環境が整っている環境がある。写真はケパ。 (C) Getty Images

 生活環境が、育成段階のサッカー選手に与える影響は大きい。ここでいう「生活環境」とは、「風土」に近いか。「土壌」とも置き換えられる。
 
 GKという特殊なポジション(ただひとりだけ、手を使えるという点で)をひとつ例にとっても、風土に左右される側面が大いにある。
 
 スペインのバスク地方は、昔から多くの有力GKを育んできた。
 
 1960~70年代のホセ・アンヘル・イリバル、70~80年代のルイス・アルコナーダ、80~90年代のアンドニ・スビサレータなど、バスクを代表するGKたちは、いずれもスペイン代表として国際大会に出場している。
 
 驚くべきことに、スペイン代表の試合の約半数で、バスク人GKがゴールを守ってきた。最近では、バスクの名門アスレティック・ビルバオからチェルシーに移籍金8000万ユーロ(約103億円)で移籍し、代表デビューも飾った新鋭、ケパ・アリサバラガの台頭が目覚ましい。
 
 なぜバスクから優れたGKが出るのか――。
 
 それについては、自著『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(東邦出版)でルポを書いているが、バスクという風土なしでは語れないものだ。
 
 ビルバオと並ぶ古豪レアル・ソシエダもGKの宝庫だが、本拠を置く町サン・セバスティアンにその理由があった。
 
 コンチャというビーチでは週末、子どもたちがボールを必死に追う。そこで、GKも跳びはね、ボールに食らいつく。その姿は、奔放そのもの。ダイブした先が硬い土ではないからだろう。砂浜でプレーすることによって、彼らは恐れず飛び込み、正しいフォームを身につけられる。
 
 ソシエダ一筋で1980-81、81-82シーズンに2度のラ・リーガ制覇を成し遂げたアルコナーダは、まさにビーチサッカーの出身である。
 
 近年、芝生が整備され、トレーニングも近代化し、「昔ほどビーチサッカーの影響はない」といわれるが、下地としてビーチサッカーの存在は残っている。
 
 余談だが、世界的GKであるジャンルイジ・ブッフォンも、自宅の裏が砂浜だった。そこで、幼い頃は憧れだったカメルーンの伝説的GKトーマス・ヌコノの真似をし、宙に浮く瞬間を楽しんでいたという。

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