【2014南関東総体】守備克服の課題と葛藤したエース渡邊凌磨がついに覚醒|前橋育英 4-0 矢板中央

2014年08月05日 安藤隆人

前線で多くの選択肢を持つ「怖い選手」に成長した渡邊。

3回戦までに3ゴール・3アシストと結果を残している渡邊。09年以来の優勝に導けるか。(C) Takahito ANDO

 上州のタイガーブラック軍団の勢いが止まらない。1回戦は昨年の選手権ベスト4の京都橘を4-0と一蹴すると、2回戦は粘る柳ヶ浦を2-1で振り切った。そして3回戦は、矢板中央を相手に4-0の無失点勝利。難なくベスト8進出を決めた。

【タレントスカウト】日本の有望株を「世界基準」で査定|渡邊凌磨編
 
 この勢いの中心にいるのが、昨年U-17日本代表としてU-17ワールドカップに出場し、今大会注目の選手のひとりであるMF渡邊凌磨だ。4-2-3-1の左MFに位置する彼は、京都橘戦で2ゴール・1アシスト、柳ヶ浦戦で1ゴール、矢板中央戦では2アシストと、全試合でゴールに絡んでいる。
 
「インターハイ前は自分の課題だった守備を克服しようと思って、守備重視でプレーしていたけど、それだと攻撃に力が入らず、自分の良さが出なくなり、プリンスリーグでも結果が出なくなった。インターハイではこれまで通り、攻撃をしながらも守備ができる選手になればいいと思って臨んだ」
 
 自分の持ち味である『点に絡む力』を信じ、それを前面に出す決意をしたことで、渡邊は本来の輝きを取り戻した。矢板中央戦では高い位置でボールを受けては、キープして時間を作ったり、効果的なパスを最終ラインの裏に次々と供給したり、攻撃のリズムの中枢を担った。
 
 圧巻だったのは16分のプレー。中央でボールを持つと、サイドに振ると見せかけて、最終ラインの裏に浮き球のスルーパス。抜け出したFW青柳燎汰の足下にピタリと合わせたボールで、先制点を演出した。
 
「狙い通りだった。スルーパスは今日の矢板中央戦までは少なくて、直接ゴールを狙うプレーが多かった。今日は青柳だったり、両サイドが積極的に裏に抜けてくれたので、それを生かす方に回ることを選択した。そうすればもっとチャンスができると思った」
 
 敢えて好調なアタッカー陣を生かす側に回ったように、シュート良し、パス良しと、渡邊は様々な選択肢を持つ非常に怖い選手になっている。U-17日本代表、前橋育英のチームメイトで、ずっと一緒にプレーしてきているMF鈴木徳真は、好調を維持する渡邊の変化をこう見ている。
 
「守備も頑張ってくれるし、本当に勝負強くなった。点を取ってほしいところで取ってくれるし、周りにも取らせている。必ず点に絡む場所にいるようになった。今大会はアイツなりにチームのためのプレーを意識しているし、今まで練習からやってきたことが、ついに実っていると思う」
 
 今大会の好調は決して突然変異のものではなく、彼がコツコツと積み上げてきた努力と意識の高さが生み出したものだ。
 
「確かに自分の持ち味が出てきている印象はありますが、ダメな部分もいっぱいある。まだプレーの判断が遅いと思うし、何より今日は点を取れていない。納得はいっていません。これからの戦いはどのチームも大した差がないし、もっと強い気持ちを持って、戦いに臨みたい」
 
 決して満足はしていない。渡邊凌磨の見つめる先はもっと先にある。エースの真価を見せるのは、まさにこれからだ。
 
取材・文:安藤隆人(サッカージャーナリスト)
みんなにシェアする
Twitterで更新情報配信中

関連記事