フランス中から歓迎されながらも「悪夢」のスタートを切った“監督”アンリの前途は!?【現地発】

2018年10月22日 結城麻里

攻撃的な采配も裏目に出て…

監督としてのキャリアは黒星で始まった。アンリ監督の次戦は24日(現地時間)に行なわれるクラブ・ブルージュ戦。縁深いベルギーに赴くことになる。 (C) Getty Images

「悪夢のような初試合」(『beIN Sports』)
「アンリは呪われていた」(『L’EQUIPE』)――
 
 1998年のワールドカップの優勝メンバーで、現在もフランス代表歴代最多得点記録を誇るティエリ・アンリが10月20日(現地時間)、リーグアン第10節ストラスブール戦で、モナコでの監督デビューを果たしたが、試合は惨憺たる展開となり、一夜明けてフランス・メディアも、やや騒然としている。
 
 アンリの監督就任は連日、大きな話題となり、本人の就任会見も昔ながらの"大演説"だったため、ストラスブールとのアウェーマッチにも強烈なスポットライトが当てられた。
 
 しかも、本人が長く抱いていたフランスに対する鬱屈とは裏腹に、フランス人の多くは期待を寄せて大歓迎。試合前には、とても優しいとは言えないストラスブールの観衆までが、熱烈拍手でアンリの監督デビューを祝った。
 
 だが……。試合は文字通り、悪夢の展開になった。
 
 そもそも、欠場選手がハンパな数ではなかった。DF3人(アンドレア・ラッジ、ジェメルソン、ケビン・エンドラム)、GK2人(ダニエル・スバシッチ、ディエゴ・ベナーリオ)に加え、昨シーズン好調だったロニー・ロペスも怪我で出場できない状態。ちなみにエンドラムは、車を運転中にバイクと接触事故を起こし、その相手に襲われての負傷だった……。
 
 さらに、そこへもってきてエースのラダメル・ファルカオも、代表戦の長旅から戻ったばかりだった。レオナルド・ジャルディム前監督なら、大事をとってファルカオを休ませたはず。ところが、アンリは彼を先発させるというリスクを選択し、これが裏目に出てしまう。37分、ファルカオは左太ももを痛め、ピッチを去る羽目になったのだった。
 
 システムも、あまりに野心的だった。ジャルディム前監督は今シーズンのメンバーの限界を見て5バックを基本にしていたが、アンリはなんとクリスマスツリー(4-3-2-1)を披露。だが、ストラスブールに先制されてしまい、4-4-2にシフトする。
 
 しかも、より攻撃的にしようと64分にサミュエル・グランシールを投入。ところが、この采配も裏目に。出場からわずか2分後、そのグランシールが一発退場になってしまったのだ……。
 
 第3GKセイドゥ・シも実力の限界を露呈し、何でもないシーンで2失点。ひたすら"悪夢"が続くなかで、アディショナルタイムに何とかユーリ・ティーレマンスがPKを突き刺した点だけが、救いといえば救いだった。
 
 1-2で敗れたモナコは、降格圏の18位からさらに19位にずり落ち、公式戦5連敗を記録。モナコがこれほどひどい序盤戦を過ごしたのは、65年ぶりのことである。
 
 もっとも、リーグアンで監督デビューした98年世界王者のうち、初戦を勝利で飾れたのはロラン・ブラン(ボルドー)だけ。先日、デビューしたパトリック・ヴィエラ(ニース)も黒星スタートだったし、今や世界最高の監督の座に昇り詰めたディディエ・デシャンでさえ、初采配(モナコ)の試合では敗北を喫している。
 
 まだ、時間は与えられている。ティーレマンスも、「ゼロからの再出発なんだから、ポジティブな面を記憶しなくちゃ」と強調した。
 
 とはいえテレビも新聞も、アンリの一挙手一投足を克明に映像と写真で追っており、しかも次は、チャンピオンズ・リーグでのデビュー戦である。監督アンリの今後には、大きな注目が集まりそうだ。
 
文:結城 麻里
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