森保ジャパンは本当に「最高の船出」を切ったのか?ヤングパワーの台頭は喜ばしいが、一歩立ち遅れた印象も否めない

2018年09月14日 吉田治良

コスタリカ戦に臨んだロシア組は、東口順昭、植田直通、遠藤航、槙野智章の4人だけだった

若手主体で挑んだコスタリカ戦は、世代交代を強く印象付けた一方で、いくつもの疑問も残った。写真:山崎賢人(サッカーダイジェスト写真部)

 バックミラーに豆粒のように映った黒い塊が、次の瞬間にはもう、テールに貼り付いていた。
 慌てて走行車線に戻ると、その脇を「ビュン」と風を切り裂きながら、一台のポルシェが平然と走り抜けていく。
 
 ヨーロッパの高速道路でハンドルを握るのは、とてもスリリングだ。もちろんドイツのアウトバーンの一部区間を除けば制限速度は定められているけれど、時速200㎞近いスピードで飛ぶように走る車は珍しくない。だから、一度追い越し車線に入ったら覚悟を決めて、運転席の床に穴が開くくらいアクセルをベタ踏みにしなくてはならないのだ。
 
 レンタカーを借りてEUROの取材をしていた頃の記憶が蘇ったのは、森保ジャパンの初陣で躍動する、中島翔哉、南野拓実、堂安律といったスピーディで、とにかく活きのいいアタッカーたちを目にしたからかもしれない。ロシア・ワールドカップでベスト16入りを果たしたメンバーを、後方から猛然と追い上げる勢いが、確かに伝わってきた。
 
 とりわけ印象に残ったのは、およそ3年ぶりの復帰となった南野だ。いつの間にか、すっかり逞しくなっていた。力強く縦に持ち出すプレーはもちろん、その精悍な顔つきやマーカーと激しくやり合う姿に、成長の跡が滲み出ていたように思う。
 
 ただ、多くのメディアが「最高の船出」と絶賛するコスタリカ戦だが、相手は主力不在のBチーム、しかも後半の頭から3人を交代させるなど、結果よりもテストを優先していた。よって、この日のパフォーマンスだけで、彼らが今後もA代表に定着できるか、そして4年後のカタール・ワールドカップで主力を担えるかを判断するのは、当然ながら難しい。
 
 近未来の予測が難しいのは、ロシア・ワールドカップの主力がひとりもいなかったからでもある。
 
 森保一監督が掲げるのは、「若手の発掘」と「世代間の融合」だ。しかし、この9月シリーズ(チリ戦は北海道の地震の影響で中止となったが)で主眼が置かれたのは前者で、招集メンバーにロシア・ワールドカップ組はわずか6人。その後、大島僚太と山口蛍が負傷で代表を辞退したため、実際にコスタリカ戦に臨んだロシア組は、東口順昭、植田直通、遠藤航、槙野智章の4人だけだった。このうちワールドカップのピッチに立ったのは、ポーランドとのグループリーグ最終戦で出番を得た槙野ただひとりである。

次ページ森保監督が若手発掘を急いだのは、ロシア・ワールドカップの代償でもあるだろう

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