実験は成功? イニエスタがJリーグの"ピンボールサッカー"に乗っかったワケ

2018年08月01日 吉田治良

バルサ時代によく見られた手間を省略した理由はいくつか想像できる

イニエスタは初スタメンの柏戦で「縦に早く入れろ」というゼスチャーを何度となく見せた。写真:茂木あきら(サッカーダイジェスト写真部)

 ある種の実験をしているようにも見えた。
 
 J1リーグ18節の柏レイソル戦で、ヴィッセル神戸加入後初スタメンを飾ったアンドレス・イニエスタのことだ。
 
 バルセロナの、あるいはスペイン代表のそれとはまた違った、神戸ならではの、そしてJリーグでこそ生きるポゼッション・サッカーとは──。その答えを探し求めながらプレーした81分間だったように感じた。
 
 神戸のシステムは4-3-3。イニエスタはピボーテ(アンカー)の前方に位置するインサイドハーフの左に入った。昨シーズンのバルサは4-4-2が基本システムだったから、まだネイマールがいた頃(2016-17シーズン)のバルサや、ロシア・ワールドカップを戦ったスペイン代表に近い形だろう。
 
 とはいえ、3トップには当然ながらリオネル・メッシもルイス・スアレスもいないし、主戦場の左サイドで言えば、ネイマールやスペイン代表でのイスコのような個の能力で局面を打開できるワールドクラスのタレントがいるわけでもない。
 
 だからこそ、イニエスタは自らが攻撃をリードすべく、高いポジションを取ったのだろう。柏が最終ラインでボールを回している状況では、CFのウェリントンのやや後方、セカンドトップの位置にまで進出してプレッシャーを掛けていたが、こうしたポジショニングはバルサではついぞ見ることがなかった。
 
 さらに、自身が高い位置に構えたうえで、チームメイトに対しては縦への展開を急がせている。
 
 Jリーグの試合でよく見られるのは、ボールがピンボールのように目まぐるしく行き来する、いわゆる落ち着きのないサッカーだが、あえてこれに乗っかった。おそらく、スピード感を持ったまま一気に敵陣深くに攻め入ろうとする意図があったのだろう。味方の最終ラインの選手がボールを持った時、「縦に早く入れろ」というゼスチャーを何度となく見せている。
 
 ボールを出し入れしながらテンポを調節する、バルサ時代によく見られた手間を省略した理由はいくつか想像できる。
 ひとつは、中盤を構成する藤田直之や三田啓貴らとのコンビネーションがまだ整っておらず、中途半端な形でボールを失うことを恐れたから。
 ひとつは、日本特有の蒸し暑さを考慮し、スタミナの消費を抑えるため。
 そしてもうひとつが、ロシア・ワールドカップの経験があったから、ではないだろうか。
 

次ページ初スタメンでトライした実験で、彼が得たものは少なくなかったはずだ

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