大ブレイクにも平然の19歳エムバペ。真の“怪物”を育てた両親も只者ではなかった

2018年07月18日 結城麻里

「現在の彼はペレと語り合っている」

愛嬌たっぷりの性格と知性溢れる言動で、ファンもメディアも魅了するエムバペ。スーパースターへの道をひた走る。(C)Getty Images

 代表チームの凱旋から一夜明けたフランスでは、ワールドカップの「最優秀ヤングプレーヤー賞」に輝いたキリアン・エムバペの未来に、大きな注目が集まっている。
 
 7月17日付けの全国紙『L’EQUIPE』では、「エムバペ、王の道筋」との見出しが躍った。中央には疾駆するエムバペのカラー写真と、そっくりの姿勢で走るペレのモノクロ写真が、ぴったりシンクロするように並んだ。
 
 特集記事を執筆したのは代表番主筆のヴァンサン・デュリュック記者で、1958ワールドカップでのペレの道筋と、2018年ワールドカップのエムバペの道筋を、大会前、大会中、そしてファイナルの3つに分けながら詳細に比較している。

 
 この記事でデュリュック記者は、「以前のエムバペはネイマールに近づこうとしていた。現在の彼はペレと語り合っている」と書き出し、「今朝(17日)は、ペレとの比較を避けるわけにいかない」と表現。そのうえで「キリアン・エムバペが私の記録に追いつき続けるようなら、私もスパイクの埃を払わなくちゃいけなくなるね」というペレのメッセージと、それに返答したエムバペのひと言を紹介した。
 
「王は、常に王のままであり続ける」、だ。
 
 このフレーズにはエムバペの謎が凝縮されている。ペレに褒められても舞い上がらない青年。わざと謙遜しているわけでもなく、その場その場で真実を的確に捉え、それでいて自分の未来も凛と見据える青年。これまで見たことのないモデルケースである。
 
 それをデュリュック記者は、「恐れ知らずと成熟の、驚きの混合」と形容した。「何事にも驚かず、何事にも動揺せず、すべてが当然で、常に彼が想像した通りのよう」(同記者)なワールドカップだったと綴った。そしてこうも書く。「アントワーヌ・グリエーズマン世代が彼を守ってくれなくても、気にかけないといった体だった」と。
 
 グリエーズマンはアルゼンチン戦の後、世界中がエムバペの話題で騒然となっているとき、その様子を問われてこう語った。「平常通りだったので、びっくり。いつもと同じだったよ」。
 
 その秘密はどこにあるのだろうか。謎を解くカギは、こんなエピソードに隠されているのかもしれない。
 

次ページそこには両親と本人の「人の道」への考え方が

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