【小宮良之の日本サッカー兵法書】ロシアW杯の“究極の一戦”に見つけた「情熱の力」と「教科書」

2018年07月15日 小宮良之

本来の力以上のものを発揮した開催国

ゴールと勝利で国民を熱狂させ、彼らの声や熱によって力以上のものを発揮したロシア。対するクロアチアは、モドリッチを軸に随所でフットボールの神髄を見せつけた。 (C) Getty Images

 ロシア・ワールドカップ準々決勝のロシア対クロアチアは、フットボールの醍醐味に満ちていた。
 
「情熱ドーピング」
 
 まず、そんな言葉を連想させた。
 
 ロシアは戦力的には劣ったものの、開催国としての意地を見せる。その姿に観客が熱狂することよって、さらに選手たちはエネルギーをもらっていた。先制点となったデニス・チェリシェフのミドルシュートの軌道は、まさに何かが乗り移ったようだった。
 
 漫画のような話に聞こえるかもしれないが、ロシアは本来の力以上のプレーをやってのけた。相手よりも一歩前に出る。ただそれだけで、互角以上に戦えたのだろう。「延長戦115分に追いつく」という芸当は、技術だけをもってしてできるものではない。底知れない力を与えられたようなところがあった。
 
 一方、クロアチアは、ルカ・モドリッチが「フットボーラーの権化」であるような姿を見せた。あらゆる局面に顔を出しながら、立ち位置を失わない。それは離れ業だった。
 
 モドリッチがボールを触るたび、クロアチアは一息つくことができた。ボールを失わないし、ボールを前に運べたし、ボールを正しい場所に繋げられる。その点、モドリッチは天性のボールプレーヤーと言えるだろう。
 
 そして、局面を切り取ってみると、それは戦術の教科書になりそうなものだった。
 
 例えば、クロアチアが同点に追いついた39分のシーン。FWのアンドレイ・クラマリッチはペナルティーエリアに入った時、4、5人の相手DFに囲まれていた。しかし正しいポジションを取っていたことで、左サイドを駆け抜けたマリオ・マンジュキッチからのクロスに合わせ、鮮やかなヘディングを叩き込んでいる。
 
「ポジション的優位性」
 
 それが、欧州の戦術においては最も重要とされる。どこに立って、ボールを呼び込むのか。その準備の段階で、トップレベルのプレーは左右されるのだ。
 
「数的優位」
 
 アジアでは、それが語られる。確かに局面においては有利になるが、それは結局のところ、他所では必然的に数的不利になっていることを意味している。
 
 数は単なる現象とすべきで、追求すべきはポジション的優位になる。数的にいかに不利であろうとも、ポジションさえ優位を保っていれば、クラマリッチのように得点できるのだ。もちろん言うまでもなく、守備において数的不利になってしまっては、破綻を意味するが……。

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