「攻め倒す」がテーマの技術委員長が代表監督になり、そのビジョンは最も効果的に全国に発信された

2018年06月25日 加部 究

西野“技術委員長”のモットーとは真逆の指導を実践していた前監督

「攻撃マインド」を持っていた西野技術委員長が代表監督に就任したことで、日本代表の戦い方は一変した。写真:JMPA代表撮影(滝川敏之)

 概して天才肌の異端児は、プライドが高く意固地な天邪鬼だ。常道を嫌い、いつも他人が思いつかない発想で驚かせたくて仕方がない。

 西野朗監督が憧れたヨハン・クライフがそうだった。走力に長けても、走るのは大嫌いだったから、汗をかかないボールを走らせることを奨励した。

 西野采配には、今までの人生の歩みを総括した上での凄みを感じる。早くから注目され、たっぷりとスター性を備えた天才肌のMFは、思う存分ピッチ上で自己表現をしたかった。だが早大を卒業し、日立(現柏)に入ると、型にはめられ精彩を欠いていく。一方で指導者に転身後は、アトランタ五輪で奇跡の勝利に導きながら「消極的」と、おそらく自分が最も嫌うレッテルを貼られた。

 以来、西野監督のテーマは「型にはめない」「攻め倒す」の2点に絞られたはずだ。一方で西野技術委員長から見た前監督は、それとは真逆の指導を実践していた。前職時代の西野氏が、いかに忸怩たる想いを抱いていたかは容易に想像できる。日本代表監督の後から技術委員長が就任する、要するに被雇用者の後から雇用責任者がやって来る矛盾による明らかな弊害だった。

 ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が選択した方向性は、欧州出身の指導者がいきなりアジアにやって来た場合の常道だ。今回もイランを指揮するカルロス・ケイロス監督が、徹底した堅守でスペイン戦に臨んだ。5-4-1を基盤に、大半の時間を6-3-1とゴール前に重心を置いて守り倒した。それは奇しくもフィリップ・トルシエ監督時代の日本代表が、フランスに0-5で大敗した後のスペイン戦に酷似していた。本場からアジアにやって来ると、どうしても個々の実績、能力、さらには国内リーグの水準に落差を感じ、消極策に閉じこもりがちになる。
 
 だが西野監督は違った。凡人には及ばないほど日本の可能性を信じ、長所を引き出すことにこだわった。

「日本にも今まで構築してきたフットボールがある。プレーに制限をつけずに、テクニック、規律、組織として化学反応していく強さをベースに……」
 就任会見ではくどいほど「間違いなく」という言葉を繰り返した。日大のアメフトスタッフは怪しい局面には必ず「正直」をつけ足したが、西野監督も努めて心中の疑心暗鬼を打ち消しているようだった。そしてすべては結果論になるが、信じ切った先に強運が待っていた。
 

次ページその戦いぶりは前任者にはない発想であり、日本のファンの琴線に触れた

みんなにシェアする
Twitterで更新情報配信中

関連記事