「トライ」の代償は? 西野ジャパンが陥った“有難くない傾向”

2018年06月12日 白鳥和洋(サッカーダイジェスト)

個々の「サッカー観」が激しくぶつかり合っている

ここから西野監督はチームをまとめることができるのか。写真:滝川敏之(サッカーダイジェスト写真部)

 トライ、トライ、トライ──。西野朗監督はまるで呪文のように「トライ」を唱えている。ゼーフェルト合宿の初日に「パラグアイ戦まで全員を使う」と明言したが、まさか本当にそれに"トライ"するスタンスだったとは……。
 
 6月8日にスイスに敗れ、そのシナリオは崩れ去ったと勝手ながら思っていた。パラグアイ戦は軸を残しつつ、数人を入れ替える。その程度のマイナーチェンジで挑むのかと思いきや、パラグアイ戦の前日会見で「起用の少なかった選手を使いたい」と改めて言ったから驚きだ。
 
 パラグアイ戦でのテストが上手く行ったら、そのままのメンバーでコロンビア戦を戦うつもりなのか。チームの確固たるコンセプトが見えていないので、どうしてもそうした安易な発想になってしまう。
 
 正直、誰を使えば効果的なのかさえ分からない。実際、スイス戦で途中出場した武藤嘉紀、乾貴士、柴崎岳、香川真司はピッチで何を表現したか。いや、基礎工事も固まっていないチームで何かを表現しろというほうが無理か。
 
 いくら優秀なタレントがいても、チームとしてのコンセプトがなければ、ただ単にパスを繋ぐ集団になってしまう。その証拠に、スイス戦の映像を見直した長友佑都は次のように嘆いていた。「足もとにボールを繋ぐばかりでは……」と。
 
 コンセプトがなければ必然的にそうなるものだろう。この前のスイス戦で言えばダイレクトプレーも、効果的なスプリントも少ない。これらは、即席チームにありがちな傾向だ。まだ共通意識を持っていないから、とりあえずボールを回りましょうかと、そんな具合である。
 
 まずは選手の意見を取り入れるというやり方をした結果、西野ジャパンは収拾がつかないような状況になっているようにも見える。個々の「サッカー観」が激しくぶつかり合っていると言えばいいのだろうか。それこそまさに、即席チームにありがちな傾向だ。
 
 「トライ」という魔物の取りつかれた結果、思うようにチーム作りが進んでいない印象の西野ジャパン。コロンビア戦まで1週間。ここから方向性を一本化できたところで、どこまで組織力を高められるのか。サッカーはそんな甘いスポーツではないが……。
 
取材・文:白鳥和洋(サッカーダイジェスト編集部)
 
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