レジェンドの軌跡 THE LEGEND STORY――第37回・ジダン(元フランス代表)

2018年06月07日 サッカーダイジェストWeb編集部

ユベントスで真のチームプレーヤーとなる

クラブ、代表、個人と、全てにおいて最高峰のタイトルを手にした、歴史的にも数少ない選手である。そして監督としても輝かしい足跡を残し、彼はそのキャリアにひと区切りをつけた。写真は01-02シーズンCL決勝後。 (C) Getty Images

 本誌ワールドサッカーダイジェストと大人気サッカーアプリゲーム・ポケサカとのコラボで毎月お送りしている「レジェンドの言魂」では、サッカー史を彩った偉大なるスーパースターが、自身の栄光に満ちたキャリアを回想しながら、現在のサッカー界にも貴重なアドバイスと激励を送っている。
 
 さて今回、サッカーダイジェストWebに登場するのは、身体能力に優れ、抜群のテクニック、高度な戦術眼を併せ持った、サッカー史上最高の選手の呼び声が高いジネディーヌ・ジダンだ。
 
 クラブ、代表で全てのタイトルを勝ち取り、個人としても最大の栄誉を手にし、さらに指揮官としても前人未到の大偉業をやってのけた偉人中の偉人の軌跡を、ここで振り返ってみよう。
 
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 ジネディーヌ・ジダンは1972年6月23日、フランスに港湾都市マルセイユに誕生した。アルジェリアの少数民族を先祖に持つ彼は、他の多くの子どもたちと同じようにストリートサッカーに興じたが、同時に父親の影響で柔道にも真剣に取り組み、茶帯を取得している。
 
 マルセイユ・ファンの少年は地元のクラブに所属した後、14歳で育成に定評のあったカンヌのユースチームに入団。89年5月18日のナント戦でプロデビューを果たすと、このシーズンは2試合の出場に止まったものの、翌シーズンには28試合に出場し、91年2月10日のナント戦では初ゴールを記録した。
 
 90-91シーズンはチームの4位躍進にも貢献。翌シーズンには自身初の欧州カップ戦であるUEFAカップ戦に出場した(2回戦でディナモ・モスクワに敗退)。そしてこのシーズン終了後、ジダンは強豪ボルドーにステップアップ移籍を果たす。
 
 このクラブでは最初から主力としてファーストシーズンから35試合に出場し、2桁得点も記録。加入2シーズン目からは3年連続でUEFAカップに出場するが、95∸96シーズンには決勝進出を果たす。バイエルンに敗れタイトル奪取はならなかったものの、ベティス、ミランといった強豪を下すのに貢献したことで、ジダンに新たな道が拓けた。
 
 このコンペティションに熱い視線を注いでいたイタリアの名門ユベントスは、躍動するジダンの獲得を敢行。退団するジャンルカ・ヴィアッリ、ファブリツィオ・ラバネッリの後の攻撃陣を担う中心選手として期待をかけた。
 
 しかし、大多数のユベンティーノは実績の乏しいジダンを「どこの馬の骨とも分からない奴」と酷評。加入後、チームやイタリア・サッカーにフィットするのに時間がかかったことが、さらに周囲の目を厳しいものとし、これが内気なフランス人青年を苦しめた。
 
 ユベントスでの初のビッグタイトルは、96年12月に東京でアルゼンチンのリーベルを下して得たトヨタカップ。ジダンはデル・ピエロの決勝ゴールを頭でアシストしたが、当時の彼からは自信は感じられず、「ミシェル・プラティニの後継者」と呼ばれることについても「僕にはそんな力はない」と弱々しく語っていたものである。
 
 しかし、このクラブで徹底的にフィジカルを鍛えられ、世界で最も厳しい戦術に揉まれ、屈強な相手選手と対峙するなかで、入団時はただ技術の高い優雅なプレーヤーだったのが、強く、勝利に直接的に貢献できる真のチームプレーヤーへと変貌を遂げた。
 
 所属した5シーズンでセリエA2回、前述のトヨタカップを制し、個人としても98年に世界一の選手の称号でもあるバロンドールを獲得したジダン。チャンピオンズ・リーグ(CL)では2度決勝に進出するも、ビッグイヤーに手は届かなかった。
 
 2001年夏、29歳になったジダンは再びキャリアの階段を駆け上がる。当時の史上最高額となる移籍金(9千万ユーロ)で、レアル・マドリー移籍を果たしたのである。「銀河系軍団」化を進めていたマドリーにとっても、歴史に残るビッグディールとなった。
 
 背番号5を与えられたジダンは、やはりここでも順応するのに時間を要し、周囲やメディアに愚痴をこぼしたりすることもあったが、時間とともに本来の力を発揮し、シーズンの終わりに伝説を生み出す。レバークーゼンとのCL決勝だ。
 
 1-1で迎えた44分、ロベルト・カルロスの浮き球のクロスを左足のダイレクトボレーで合わせ、ゴール左隅に突き刺した決勝ゴールは、各方面から絶賛され、今なおCLにおけるベストゴールに挙げられるほどである。
 
 マドリー加入1年目で、印象的なかたちでCL制覇を成し遂げたジダンは、同年冬、さらにロナウドを加えてスター軍団化したマドリーの一員として来日し、トヨタカップを制し、自身2度目のクラブ世界一を経験した。なおこのシーズンには、唯一となるリーガ・エスパニョーラ優勝も飾っている。

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