【W杯 伝説への挑戦】メッシはマラドーナを超えられるか|ゴール後に解き放った怒りの咆哮

2014年06月17日 チヅル・デ・ガルシア

初戦の勝利に安堵の笑顔も、ゴールを決めるまでは不機嫌そのもの。

ハーフウェーライン付近からドリブルで持ち込み、巧みなフェイントからの狙い澄ましたシュート。メッシだからこそ可能な離れ業のゴールだった。 (C) Getty Images

 ネイマール、リオネル・メッシ、クリスチアーノ・ロナウド――。自他ともに認めるブラジル・ワールドカップの主役候補の3人だ。彼らが挑むのは、ただし今大会の主役の座という限定的な栄誉ではないだろう。
 
 いずれもサッカー史に名を刻みうる特別な才能であり、ブラジルのネイマールはペレ、アルゼンチンのメッシはマラドーナ、ポルトガルのC・ロナウドはエウゼビオという、それぞれの国のレジェンドを超えうるカリスマだ。
 
 ブラジルの地で、いわば伝説に挑む3人の天才。その闘いに密着してお届けしよう。
 
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「大切なのは、初戦を勝利で飾れたこと。今はとても幸せな気分だ」
 
 試合後のミックスゾーンに現われたリオネル・メッシの表情は明るく、笑顔が絶えなかった。マイクやボイスレコーダーを手に、コメントを取ろうとするアルゼンチンの記者たちの顔も一様に緩んでいる。初出場のボスニア・ヘルツェゴビナの粘りに遭い、まさに「辛勝」という言葉が相応しいゲームだったものの、勝点3を奪った安堵感がその場に漂っていた。 
 
「(ブラジルに入ってから)もう何日も過ぎて、大会が開幕して、他のチームがどんどん試合をしているのを観ていて、僕たちも早くプレーしたいと思っていた。(苦戦の原因は)もしかしたら、その気持ちが逆効果になったのかもしれない。でも、とにかく最初の試合で勝てて良かった」
 
 初戦で上昇気流に乗ることの重要性を何度も強調しながら、試合後は非常に嬉しそうな顔を見せてはいたが、65分にゴールを決めるまで、メッシは不機嫌だった。いや、得点後の咆哮からは、溜め込んだ怒りを解き放ったかのような感じさえ受けた。
 
「前半はなかなか思いどおりのプレーができなくて、困難な状態だった。(自分に)ミスもあったし、相手のゴールが遠くて得点のチャンスを作ることができなかった」
 
 この日のマラカナンは大勢のアルゼンチン人サポーターで埋まっていたが、ブラジル人ファンたちは試合中、メッシがボールを持つたびに激しいブーイングを浴びせかけた。南米予選でアウェーの過酷な環境には慣れているメッシも、思うように攻撃を展開できない中でのブーイングに、苛立ちは募る一方だったに違いない。
 
 攻勢のきっかけとなったのは、ハーフタイムだった。この時、控え室で何があったかは明らかにされていないが、ピッチレポーターによると「前半終了後、引き揚げる選手たちが何やら真剣に話し合っていた」という。ベテランの代表番記者は「5バックで自陣を固めるやり方が機能していないこと、敵陣での人数を増やすことを、選手たちがサベーラ監督に提案したはず」と断言する。
 
「後半からは中盤にフェル(ガゴ)、前線にピパ(イグアイン)も入ったことで状況が変わった。僕たちが慣れているスタイルだからね。守備に回った時は、ちょっと苦しめられたけれど、攻撃の人数を増やすことでリズムを掴めた。前線の4人(メッシ、イグアイン、アグエロ、ディ・マリア)が動くことによって相手を惑わせ、より多くのチャンスを作り出すのが理想的だ」
 
 アタックの理想形をこう語ったメッシ。次のイラン戦では、攻撃陣の威力が最大限に活かされる4-3-3の採用が濃厚だ。ここで快勝すれば、早くもグループリーグ突破を決める可能性もあるが、メッシは慎重な態度を崩さなかった。
 
「改善すべきところを見直して、次の試合では自分たちのサッカーを見せたい。目標達成に向けて、焦らず1試合ずつ集中してプレーしたいと思っている」
 
 目指すは86年メキシコ大会以来の優勝。しかし、メッシは足下を見つめながら平常心で一歩ずつ、高みへと向かうつもりだ。
 
文:チヅル・デ・ガルシア
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