【W杯キープレーヤー解体新書】フィリップ・ラーム|図抜けたフットボール・インテリジェンスを持つ世界一の右SB

2014年06月16日 ロベルト・ロッシ

プレー感覚が異なるアンカーも難なくこなす。

技術・精神面はもとより、卓越したリーダーシップを発揮するラームは、ドイツには不可欠な存在だ。 (C) Getty Images

 10年の南アフリカ・ワールドカップ直前からキャプテンを務めているラームの仕事は、質の高い攻撃参加でアタックに幅と奥行きを作り出すだけではない。傑出したパーソナリティーを備え、チーム全体の精神的な支柱として重要な役割を果たしている。チームが困難に直面した時には、周囲を鼓舞して士気を高めると同時に、自らの積極的なプレーで流れを変えようとする。技術・精神面に加え、リーダーシップという点でチームに不可欠な存在と言えるだろう。
 
 バイエルンでの最近の働きぶりからも、図抜けたフットボール・インテリジェンスの持ち主であると窺える。4-1-4-1のアンカーに入り、非常に質の高いプレーを見せているからだ。タッチラインを背負って180度の視野でプレーする機会が多いSBと、360度の視野が必要なアンカーではプレーの感覚が大きく異なるが、難なくこなしているのはさすがだ。
 
 他に高い攻撃力を備えた右SBが不在のドイツ代表での地位は不動だ。ラームを欠くと右サイドからの攻撃で数的優位を作って崩すのが難しくなる。右サイドアタッカーのミュラーは単独の突破力が高くなく、スペースを突くパス&ランで局面を打開するタイプ。オーバーラップでマークを引き剥がすラームのサポートがないと持ち味が半減する。
 
 1対1の突破力を持っているのはむしろラームの方で、ライン際を縦に抜け出してのクロスもさることながら、ドリブルで中に入り込んでのシュートやアシストも効果的だ。守備の局面では戦術意識が高いとは言えない最終ラインの中で、的確なポジショニングでファーサイドをカバーしたりする。その貢献度は目立たないながらも大きい。中盤でプレーする機会が増えている現在も、世界ナンバーワンの右SBである事実に変わりはない。
 
 本大会に向けた不安があるとすれば、コンディション面だけだ。あまり怪我に強いとは言えず、SBよりも格段にフィジカルコンタクトの多い中盤でハードな日程をこなしてから迎えるワールドカップに、十分なコンディションで臨めるかどうかが懸念されるところだ。
 
分析:ロベルト・ロッシ
構成:片野道郎

※『ワールドサッカーダイジェスト 出場32か国戦術&キープレーヤー完全ガイド』p86より抜粋。
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