【小宮良之の日本サッカー兵法書】 ポゼッションスタイルでゴールを奪うために絶対不可欠なもの

2018年05月03日 小宮良之

「幅を作る」ロッベンを失ったバイエルンは…

組織は大事だが、やはりサッカーの攻撃における原点は、個人が目の前の敵をかわせるか否か。パス回しだけでは、すぐに頭打ちとなってしまう。 (C) Getty Images

 先週のチャンピオンズ・リーグ準決勝、バイエルン・ミュンヘン対レアル・マドリーの第1レグ。立ち上がりから試合を押し気味に進めていたのは、ホームのバイエルンだった。
 
 マドリーはマンマークに近いプレッシングでボールの出所を封じに来たが、バイエルンはボールを繋げる力を顕示していた。
 
 しかし、8分のことである。右サイドで攻撃の一翼を担うはずだったアリエン・ロッベンが怪我でチアゴ・アルカンタラとの交代を余儀なくされるアクシデント……。これで、バイエルンの優勢は急速に萎んでいった。
 
 そこからは、繋がっていたはずのボールが繋がらなくなった。28分にカウンターからヨシュア・キミッヒのゴールで先制したものの、それ以後、バイエルンは完全にペースを失った。結局はマドリーに2失点を食らい、試合を落としている(第2レグは2-2の引き分けに終わり、バイエルンは敗退)。
 
 試合序盤でロッベンを欠いたことは、バイエルンにとっては致命的だった。彼が右サイドに陣取り、ボールを受ける。それだけで、マドリーに脅威を与えられた。相手をスライドさせることで、精神的、肉体的に追い込んでいた。
 
「幅を作る」
 
 そういう戦術的作業を、ロッベンは遂行していたのだ。
 
 そのせいで、マドリーは広大なスペースを守り切らなければならなかった。外を守ろうと思えば、中が手薄になる。中を厚くすると、外から抉られる……。それが、ロッベンがいなくなって、危険な状態から脱することができた。
 
 ロッベンを失ったバイエルンは、トーマス・ミュラーを右のシャドーストライカーのようなかたちで置き、SBのヨシュア・キミッヒに高い位置を取らせ、サイド攻撃の厚みを上げようとしていた。
 
 しかし、それは応急処置であり、生粋のサイドアタッカーの穴を埋めることにはならない。控えのサイドアタッカーであるキングスレー・コマンも欠いていたことが、バイエルンにとっては運の尽きだったと言えるだろう。
 
 左サイドではフランク・リベリが健闘したものの、"片翼飛行"では十分ではなかった。

次ページひとつのコンセプトとして有用なポゼッションだが…

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