相手のワールドクラスを知っていたはずの日本の選手たちは、なぜ心理戦で主導権を握られたのか?

2014年06月15日 加部 究

相手の威力を体感した選手たちには、加速度的に警戒心が膨らんでいった。

香川、長友の左サイドが機能しなかったのも、守備で後手に回る場面が増えたことと無関係ではないはずだ。 (C) SOCCER DIGEST

 ザッケローニ監督の就任以降では、二度のブラジル戦に匹敵する完敗だった。
 
 大前提として、両国には予想を超えた圧倒的な個の差があった。トゥーレ・ヤヤを筆頭に、加速した彼らがパワーを伴ったブレのないプレーを見せると、日本は複数の選手がチャレンジしても成す術を失い、後傾していった。
 
「互いの距離が保てず、いつものように日本の長所を発揮できなかった」
 ザッケローニ監督も、そう振り返っている。
 
 そういう意味では、謙虚に相手を知り、いかに特徴を出して、相手の長所を消すかという事前の準備でも、明暗は分かれていたのかもしれない。
 
 もともとコートジボワールが、世界屈指の戦力を備えていることは明白だった。だが反面あまりにビッグネームが並ぶと、個の打開力に偏り過ぎる傾向が出る。裏返せば、日本の組織力が遺憾なく発揮できた時に、付け入る隙がある。そんな性格の試合だった。
 
 ところが聞けばコートジボワールは、日本戦を決勝戦だと捉えて臨んできたという。つまり能力の高い個が、戦術的に狙いを定めて結束した。牽引した若いラムシ監督の手腕も見事だったが、日本は改めてその凄みを知ることになった。
 
 とりわけ両国の明暗を象徴していたのが、日本のストロングポイントである左サイドの攻防だった。前半から日本は、本田がボールを引き出すために深い位置に戻り、香川が中央に入る時間が目立っていた。その分、長友が高い位置を取ろうとするのだが、対峙するコートジボワールの右サイドが強力だった。実際序盤から長友が上がった裏を突かれ、右SBのオーリエには鋭いクロスを入れられていた。また開始早々の5分には、日本の左サイドからの攻撃で香川のミスパスからカウンターを食い、長友ではなく吉田が、サイドを変えて右に飛び出したジェルビーニョへの対応を迫られ、際どい形を作られている。
 
 唯一日本に勝機があったとしたら、本田の先制後の5分間程度の時間帯に追加点を奪えていた場合だった。日本が攻勢に出られたのは、この時間帯だけだった。振り返れば、千載一遇のチャンスだったことになる。
 
 そしてそれ以降の主役は、一貫してコートジボワールだった。ピッチ上で彼らの威力を体感した日本の選手たちには、おそらく加速度的に警戒心が膨らんでいったはずだ。高い位置でボールを奪いに出られず、反面引き過ぎて中盤からドリブルで上がる選手へのアタックが遅れる。そんなシーンが続くようになった。
 
 つまりコートジボワールは、特徴を前面に押し出し、心理戦で完璧に主導権を手にしていた。香川がバイタルエリアで仕上げに入る前の段階でミスを連発したのも、守備で深い位置に戻されることが増えていたことと無関係ではないだろう。一方日本では切り札的な存在とも言えた長友も、優位な状況での1対1の仕掛けは許してもらえなかった。逆に時間の経過とともに、息つく間も与えずに決定機を積み上げていったコートジボワールは、右SBのオーリエからの絶妙のクロスで2点を奪っている。こうして日本は、得意なサイドの攻防で完敗した。

次ページ日本とスペインに共通する、一級品の極限的な凄みに直面して生まれた焦燥。

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