【W杯 伝説への挑戦】メッシはマラドーナを超えられるか|笑顔が弾けるスタート

2014年06月15日 チヅル・デ・ガルシア

無冠のシーズンは過去に葬り去り、気持ちはワールドカップへ。

キャンプでは常に明るい表情を見せていたメッシ。バルサでの失意のシーズンからの切り替えはできている。 (C) Getty Images

 ネイマール、リオネル・メッシ、クリスチアーノ・ロナウド――。自他ともに認めるブラジル・ワールドカップの主役候補の3人だ。彼らが挑むのは、ただし今大会の主役の座という限定的な栄誉ではないだろう。
 
 いずれもサッカー史に名を刻みうる特別な才能であり、ブラジルのネイマールはペレ、アルゼンチンのメッシはマラドーナ、ポルトガルのC・ロナウドはエウゼビオという、それぞれの国のレジェンドを超えうるカリスマだ。
 
 ブラジルの地で、いわば伝説に挑む3人の天才。その闘いに密着してお届けしよう。
 
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「メッシが笑顔を絶やさない。本当に嬉しそうだ」
 5月26日、アルゼンチン代表の直前合宿に合流して以降、メッシの底抜けに明るい表情が非常に印象的だ。チームに密着している番記者たちも感心していた。キャプテンとして、完全にチームの中心人物となったリオネル・メッシが、にこやかで機嫌良く過ごしているせいか、グループ内は実に和やかで、和気あいあいとした良いムードに包まれているからだ。
 
 ブラジル入りする4日前に行なわれたチームの公式写真撮影でも、その雰囲気が手に取るように感じられた。スーツを着込み、メッシを含むほとんどがすでに外で待っているのに、一部の選手がまだ出てこない。遅れた選手たちが「ごめん、ごめん」と謝りながら小走りで現われるや、ジョークのブーイングが一斉に巻き起こる。メッシはその光景がおかしくてたまらなかったようで、口を大きく開けて大笑いした。
 
 9日に国営のアルゼンチン航空が準備したワールドカップ仕様の特別チャーター機でブラジル入りした時も、チーム内でもっともリラックスした表情を見せていたのがメッシだった。協会所有の代表専用合宿所から空港までのバス移動の際も終始笑顔。つい1か月前までバルセロナで意気消沈していたのが遠い昔のように思えるほどだ。
 帰国するなり「頭の中のチップを変える」と語ったとおり、チームが主要タイトルを獲得できなかったシーズンのことは過去に葬り去り、気持ちをしっかりワールドカップに切り替えることができたのは明らかだった。
 
 キャンプ地となるベロオリゾンテに到着したチーム一行を待っていたのは、なんと「MESSI」の名前入りのアルゼンチン代表ユニホームを着たブラジル人たち。サッカーではアルゼンチンにとって宿敵のブラジルだが、メッシは大の人気者なのだ。
 
 2日後の夕刻に予定されていた公開練習を見ようと、48時間前からスタジアム周辺には長蛇の列ができ上がり、用意されていた4000枚のチケットは瞬く間になくなったため、急遽6000枚が追加された。
 
 そして、公開練習当日。集まった大勢のブラジル人たちからはメッシ・コールが巻き起こり、その熱烈歓迎ぶりに選手たちも嬉しい驚き。練習が終わると、十人ほどのファンがピッチに乱入し、そのうちのひとりはメッシの前にひれ伏してスパイクを磨き、また、ロナウジーニョにそっくりなファンも登場し、メッシに握手をしながらひざまずいて敬意を表した。
 
 「温かい歓迎を受けてとても感謝している。ブラジルとは決勝で当たれたらといいね」
 心身ともに絶好調のメッシの挑戦はこうして笑顔とともに始まった。
 
文:チヅル・デ・ガルシア
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