【W杯キープレーヤー解体新書】リオネル・メッシ|3秒間で試合を決定づける天才

2014年06月15日 ロベルト・ロッシ

コンディションによっては致命傷になりかねない。

誰もが認める世界最高のフットボーラーを、「両刃の剣」とロッシ氏が結論づけたその理由とは――。 (C) Getty Images

 誰もが認める世界最高のフットボーラーだ。メッシがピッチに立っている、それだけでチームの勝利は義務づけられる。敵に与える不安と恐怖、味方に与える自信と信頼感は極めて大きく、常にゲームの行方を左右する存在だ。
 
 ブラジルにおけるネイマールと同様に、メッシに1対1で仕掛けられたら、阻止するのは至難の業。守備側は少なくとも2人のマーカーをつけざるをえない。そして他のアタッカーはその恩恵を受け、小さくないスペースを得る。バルセロナでも代表でも相乗効果は絶大だ。
 
 サベーラ監督がポゼッションサッカーにこだわるのも、そのアドバンテージを活かしたいがゆえだろう。メッシの長所を最大限に引き出せるのは、バルセロナのスタイルである。問題は、アルゼンチン代表にはシャビもイニエスタもいないという点だ。
 
 アタッカー陣の顔ぶれはたしかに強力だが、メッシと連係しながら攻撃のリズムを作り、崩しのパスを前線に送り込む司令塔は不在。ガゴのスキルでは明らかに不十分で、メッシは単独の仕掛けでの局面打開を強いられる。
 
 コンディションが万全の時には、そうした状況でも軽々と切り抜け、数的優位を作り出して決定機に結びつける。スピード、アジリティー、テクニック、ファンタジアとストライカーに必要な全てのクオリティーを備えた天才で、3秒間で試合を決定づける力がある。
 
 一方で、常に足下にボールを要求し、静止した状態からプレーをスタートしがちなため、守備側にとっては基準点となりやすい。バルセロナでもコンディションがさほど良くない時には、囲い込まれてボールを失うシーンが少なくない。
 
 ワールドカップのような大舞台では、たとえ調子が良くなくとも、メッシをベンチに置く決断は下せないだろう。とはいえ、そんな状態でピッチに立つメッシは、チームにとって明らかな重荷だ。守備の局面で限定的な貢献しか望めないうえ、ボールロストが頻発すれば、攻守両局面で致命傷となりかねない。
 
 いわばアルゼンチン代表にとってメッシは、両刀の剣なのだ。はたして、万全のコンディションでワールドカップに臨めるか。アルゼンチン代表の命運を左右する大きな問題だ。
 
分析:ロベルト・ロッシ
構成:片野道郎
 
※『ワールドサッカーダイジェスト 出場32か国戦術&キープレーヤー完全ガイド』p74より抜粋。
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