熊谷紗希が“世界一のキッカー”として後輩に伝えたこと。今のなでしこJには彼女の発想が必要だ!!

2018年04月18日 西森彰

「成功、失敗を考えるより、思い切りやることが大事なんだ」

なでしこジャパンのキャプテンとしてチームを引っ張る熊谷。苦しい展開でも最終ラインで大きな声を出してチームを支えている。(C) Getty Images

 2013シーズンの常盤木学園は、夏冬ともに全国大会でPK負けを喫した。伊藤美紀(現・INAC神戸レオネッサ)ら卒業する3年生を含めたチームは、選手権終了後、海外遠征に出かけている。向かった先はフランス。常盤木卒業生の熊谷紗希がプレーするオリンピック・リヨンの敷地内で練習は行なわれた。
 
 恩師と後輩のところへ顔を出した熊谷を見て、阿部由晴監督が言った。
「紗希はワールドカップで優勝のキックを決めているんだ。世界一のキッカーに、PKの蹴り方を教えてもらえ」
 伊藤らは「PKのコツを教えてください」と常盤木の先輩にせがんだ。すると熊谷は、後輩を前にボールをセットした。
 
「『こういう時には思い切りが大切だ。チョロチョロ蹴って外すよりも、思い切り蹴って外したほうがいい』って言って」(伊藤)
 
 世界一を決めたキックと同じように、大きなフォームから思い切り足を振り抜いた。ボールはゴールの枠を外したそうだが、熊谷の「成功、失敗を考えるより、思い切りやることが大事なんだ」という教えは、後輩たちの胸に落ちた。
 
 女子アジアカップで得たチケットで、来年のフランス女子ワールドカップに挑むなでしこジャパン。ドイツ大会優勝メンバーはともかく、これに続く経験の浅い若手にとって、最も必要なことは、まさに「失敗を恐れることなく、自分のプレーを思い切り出し切る」ということだろう。
 
 世代交代に挑んでいる、現在のなでしこジャパンの主将に、失敗を恐れない大胆さ、積極性を持つ熊谷は適任だ。
 
 この女子アジアカップでは、6失点を喫した「アルガルベショック」を払拭するため、コンビを組む市瀬菜々(ベガルタ仙台レディース)、そしてボランチの阪口夢穂(日テレ・ベレーザ)とのトライアングルで、中央に固い守備ブロックを構築。ベトナム戦、韓国戦と開幕2試合を無失点で乗り切り、チームに勢いを与えた。
 
 オーストラリア戦でも、前回のゲームでハットトリックを喫したサマンサ・カーら、大きく、速い選手に自由を許さない。高倉監督就任後、取り入れられたフィジカルトレーニングも「その必要性は以前から、意見を出していた」熊谷は、空中戦から、カバーリングまで、鍛え抜いた力を存分に発揮した。ようやく、オーストラリアにゴールを与えたのは86分。先制点奪い終盤まで無失点に抑え込んで、日本の準決勝進出がほぼ間違いない状況を作り上げた後だった。
 

次ページ準決勝・中国戦は前半の楽勝ムードから一転、逆襲にさらされたが…

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