【現地発】イニエスタは「4月中に発表」と明言することで、ファンに心の準備を呼びかけている

2018年04月03日 エル・パイス紙

戦力面の損失は計り知れない。

イニエスタは噂どおりバルサに別れを告げるのか。“Xデー”は刻一刻と近づいている。(C)Getty Images

 アンドレス・イニエスタの去就問題が大きな注目を集めている。バルセロナ側に落ち度があったとすれば、昨夏、契約延長交渉の着手に遅れたことだ。油断をしていたのか、あるいは意図したものであったのか、その真意は分からない。しかし、この時間のロスが、イニエスタの気持ちを退団へ傾かせる余地を作ってしまった。

 いつまで待っても契約延長のオファーが届かないため、一時はバルサでの選手生活に終わりを告げることも覚悟したという。2018年6月で満了することになっていた契約は昨年10月、ジョゼップ・マリア・バルトメウ会長の介入もあり、無事更新された。イニエスタは、自身が望む限りプレーを続けられる「生涯契約」をバルサと締結した最初のプレーヤーとなり、これによってすべての問題が決着したかに思われた。

 だが、この件がしこりとなり、イニエスタは12歳の時にラ・マシア(バルサの下部組織の総称)に入団して以来、初めてバルサを退団する自身の姿を想像した。言うなれば、昨夏の段階からすでに「アディオス(さよなら)」への心構えを持ち始めていたとも言える。

 とはいえ、残留の線が完全に消えたわけではない。来シーズン以降の数年間、バルサでプレーしつづける可能性も残っている。しかし重要なのは、かつてシャビやビクトール・バルデスがそうだったように、バルサ一筋のキャリアを送ってきたイニエスタがその愛するクラブ以外で現役を続行する可能性を探り始めたことだ。「バルサ退団=現役引退」という、ひとつの選択肢しか持たなかったカルレス・プジョールとは対照的な状況にある。

 現在移籍先として浮上しているのが、中国のスーパーリーグとアメリカのMLSだ。とりわけ、中国のあるクラブからは破格のオファーが届いており、イニエスタはすでに今月30日までに残留か移籍かの決断を発表することを明言している。

 
 もちろんバルサ側も、その"Xデー"に備えた補強の動きを見せている。今年1月のフィリッペ・コウチーニョの獲得と3月に発表されたアルトゥール(グレミオ)の買い取りオプションの確保は、クラブ内でポスト・イニエスタに向けた準備が進められていることのなによりの証だ。

 しかしイニエスタは、そんな中でもあくまでバルサ愛を体現しつづけている。リーガ・エスパニョーラのアトレティコ戦で太腿を負傷した後、当初は全治3週間と診断されながら、懸命なリハビリを経て、わずか10日後のチェルシー戦(CLラウンド16の第2レグ)で戦線復帰を果たしたのは、負ければ即敗退につながり、自身にとってその一戦が最後のCLとなる可能性もあったからかもしれない。

 昨シーズンはコパ・デル・レイの1冠に終わり、夏にはネイマールが退団と、開幕前には暗雲が漂っていたバルサだが、いざ蓋を開けてみれば序盤から快進撃を見せ、シーズンの佳境を迎える中、トリプレーテ(3冠)を手にする可能性を残している。

 そのチームの中で、イニエスタの貢献は甚大で、ここまで全公式戦33試合に出場。そのうち30試合にスタメン出場を果たしている。黄金コンビを形成するリオネル・メッシの存在、エルネスト・バルベルデ監督との信頼関係が、ベテランMFに残留という決断を導き出させる決定的な要因にもなりうる。しかし逆にこの状況が、イニエスタを「最高の形で花道を飾りたい」という心境にさせたとしても不思議ではないのだ。

 クラブ全体の予算で、人件費が占める割合が80%前後に達するという緊急事態に直面しているバルサにとって、高給取りのひとりであるイニエスタの退団は、経済面においてはそうした負担を軽減する意味合いを持っている。しかし戦力面では、チームにとっていまだに代えの利かない存在であり続けており、その損失は計り知れない。

 イニエスタはつねに周囲に気を配る思いやりのある心の持ち主だ。その彼が前述のチェルシー戦後、期間を定めて退団か移籍かを発表すると事前にワンクッションを置いたのは、それなりの理由があってのことだろう。ロシア・ワールドカップ後に退団を決意した場合に備えておいてほしい――。そのメッセージは、まるでバルセロニスタに心の準備を呼びかけているようでもある。

文●ラモン・ベサ(エル・パイス紙/バルセロナ番記者)
翻訳:下村正幸
※『サッカーダイジェストWEB』では日本独占契約に基づいて『エル・パイス』紙の記事を翻訳配信しています。
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