13年間の惜別 チェルシー番記者が綴る「素顔のランパード」

2014年06月05日 ダン・レビーン

ずっと会場に残ってファン一人ひとりにサイン。

チェルシー退団が決まったランパード。間近で取材してきた番記者が、惜別の思いを綴った。 (C) Getty Images

 フランク・ランパードが、チェルシーでのキャリアに終止符を打った。栄光に満ち溢れた13年間だった。
 
 取材を通じて私の記憶にもっとも強く残っているのは、なにより人好きのする豊かな人間性だ。選手としてではなく、ひとりの人間としてのランパードに強い感銘を受けた。
 
 そんなランパードの魅力が凝縮していたのが、2007-08シーズンのチャンピオンズ・リーグ(CL)決勝、その試合後のミックスゾーンでの振る舞いだ。PK戦の末にマンチェスター・ユナイテッドに敗れたチェルシーの選手で唯一、取材に応じてくれたのがランパードだった。しかも、だ。通り過ぎるユナイテッドのリオ・ファーディナンドを見つけると、取材を一時中断して彼に祝福の言葉さえ贈った。
 
 満面の笑みを見せてくれたのは、その4年後のCL決勝だ。バイエルンを破って悲願の初優勝を遂げたランパードは、人はそんなに笑えるかというくらいの笑顔で、ミックスゾーンに現われた。手にはビールグラス。それが一杯目ではないことは、ややおぼつかない足取りからうかがえた。
 
 ランパードが謳歌したチェルシーでのハイライトは、このミュンヘンの夜だけではない。燦然と輝く金字塔は、クラブの通算最多得点記録だ。13年4月のアストン・ビラ戦で塗り替えた。その瞬間に立ち会えた幸運は、記者としての私の大切な宝物だ。
 
「これで正真正銘、チェルシーのレジェンドになった。どんな気分?」
 記録更新の感想を求める私に、ランパードは例によって感謝の言葉を口にした。
 
 いつもそうだ。いつだってランパードは、三者への感謝を忘れない。すべての試合について回り、バルセロナやミラノへの遠征には格安フライトで駆け付ける姿がお馴染みの父、08年に他界した母、そしてファンへの感謝だ。
 
 ここまでファンとの距離が近かった選手を、少なくともチェルシーの選手を、私は知らない。サインや写真を求められたら常に気軽に応じ、気さくに会話を交わす。忘れられないのが、ヨーロッパリーグ(12-13シーズン)を制した数日後の、あるチャリティーイベントでの姿だ。
 
 スピーチをして帰るはずだったランパードは、出番を終えてもそのまま会場に残り、集まったファン全員にサインをしたのだ。最後のひとりが帰った時、時計の針は深夜12時を回っていた。

次ページ天国の母にゴールを捧げるそのシーンは…。

みんなにシェアする
Twitterで更新情報配信中

関連記事