なぜ小林悠は全力で走り回っていた大久保嘉人に「守備しなくてもいい」と言ったのか?

2018年03月14日 江藤高志

与えられたタスクをやり遂げるには体力を使い果たす必要があった。

ピッチで攻守にフル回転を見せていた大久保に、投入された小林は「守備をしなくてもいい」と話したという。その真意とは? (C) Getty Images

 メルボルン・ビクトリー戦で先発の大久保嘉人は、前半の立ち上がりから全力で相手ボールに襲いかかっていた。献身的なプレスで相手のパスコースを制限し、それがパスミスを誘発させて序盤戦の攻勢の下地を作っていた。
 
 攻撃面に目を転じても、立ち上がりの10分にクロスバーを直撃するシュートを放つなど存在感を示しており、ゴールに期待が持てる滑り出しを見せていた。
 
 ただ、結果的にゴールは奪えなかった。そんな試合を振り返った大久保は「前の選手は守備においては戻らないといけないし、前にも入らないといけない」と語り、そうした約束事があるため「すべてにおいて走り回った」という状況が生まれていたと話す。与えられたタスクをやり遂げるには、体力を使い果たす必要があったのだ。
 
 大久保としては守備から攻撃への切り替えのところで、もう少しうまく試合を進めたかったとの思いがあったようだ。つまり全体が守備に戻りすぎて低い位置になっており、いざ攻撃に取り掛かろうとしても、前に人数を掛けきれない状況があったという。そうではなくて「ハーフラインぐらいから取った時に前に(人数)かければ、自ずと前でキープできますし、みんなも上がってこられると思う」という状況を作りたかったという。
 
 ただし、この試合は思うように攻撃に人数を割けなかった。だからボールを失う。そうすると守備に戻らなければならない。ゆえに、「1回戻って取ったらダッシュでゴール前に行くという形だった。だからずっと走っている感覚がありました」という試合の流れになってしまっていた。
 
 ピッチ内を駆けずり回り、攻守に全力を尽くしていた大久保に対し、小林悠は「守備しなくてもいい」という言葉を掛けたと話す。小林は58分に途中出場しており、大久保に比べてフレッシュな状態だった。
 
「勝たねばならない試合でした」と話す小林は、勝つために必要なものとして守備も攻撃も選ぶのではなく、まずは大久保の攻撃力を活用したいと考えた。ベンチから見ていても大久保の奮戦ぶりは明らかで、小林は「ずっと守備を頑張っていた」大久保から負担を取り除くべきだと考えたのだ。ただ、その時点で、試合はメルボルン・Vペースで推移しており、そもそも攻撃に移ることができていなかった。結果的に大久保も含む川崎攻撃陣はノーゴールに終わった。
 
 Jリーグでの戦いに比べるとACLでの不調は明らか。チームを改善するのにもっとも適した実戦の舞台が、ひとつ消えそうな今、思うように結果を残せていない大久保の現状が今季の川崎の厳しい戦いを象徴しているように感じる。
 
取材・文●江藤高志(川崎フットボールアディクト編集長)

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