【現地発】得点嗅覚と凄味を取り戻したバイエルン&ドイツ代表の栄光へのキーマン

2018年03月09日 中野吉之伴

自由がなければ、トップ下でなければ、輝けない?

絶大な存在感を示しているミュラー。28歳とキャリアの絶頂期を迎えようとしているなかで、プレーの安定感を取り戻しながら、さらにその幅を広げつつある。 (C) Getty Images

「おお! もう今日のミュラーは、本当に止められないな。全てのプレーが凄いよ」
 
 ブンデスリーガ第25節フライブルク対バイエルン戦でトーマス・ミュラーが63分に見せたプレーの後、僕の後ろに座っているドイツ人記者が、同僚と感嘆の声を上げていた。
 
 中盤で相手ボールをインターセプトしたCBジェローム・ボアテングが、素早くボレーで右サイドに展開。タッチラインを割りそうなギリギリのボールを、ミュラーがダッシュからのスライディングでコントロールすると、すぐに立ち上がってファーサイドのファン・ベルナトへ正確なクロスを入れる。
 
 ベルナトのヘディングシュートこそ枠を外れたが、全ての動きの連続性は本当に素晴らしいものだった。
 この4-0の勝利を飾った試合で、ミュラーは1ゴール1アシストをマーク。チーム3点目も、起点は彼からのパスだったので、実質3得点に絡んでいる。
 
 この日のゴールで、ミュラーはバイエルンでの通算ゴール数を102とし、歴代4位に浮上した。ちなみに上位は、1位ゲルト・ミュラー(365点)、2位カールハインツ・ルンメニゲ(162点) 3位ローラント・ヴォールファールト(119点)である。
 
 今年に入ってからの、ミュラーの爆発ぶりは凄い。6得点5アシストはリーグトップの数字だ。2月20日に行なわれたベジクタシュとのチャンピオンズ・リーグ(CL)決勝トーナメント1回戦・第1レグでも、2得点1アシストでチームの大勝(5-0)に貢献した。
 
 特に先制ゴールは、ミュラーらしさが出た得点だった。ゴール前にこぼれてきたボールに誰よりも速く反応すると、素早い反転からつま先でゴールに流し込んだ。ドイツ代表監督ヨアヒム・レーブは以前、「トーマスには、ゴールを嗅ぎ分ける特別な感覚がある」と称賛していたが、ようやくその嗅覚が戻ってきたようだ。
 
 今シーズン前半はカルロ・アンチェロッティ前監督の下、レギュラーを外れることも少なくなく、出ても"らしい"プレーはほとんど見られなかった。
 
 ミュラー不振の要因として、その起用法について議論に上がることが多く、一時期、ドイツメディアでは「自由がなければ、ミュラーは輝けない。トップ下でなければ。サイドでは、ミュラーは機能しない」という見識ばかりで論じられていた。
 
 確かに、サイドで窮屈そうにプレーしている時はミスも多いし、怖さもなかった。
 
 だが、代表では攻撃的な右サイドに入ることが多く、そこで窮屈そうにプレーしたりはしない。ミュラー自身、フライブルク戦後に自身のポジション感について、以下のように語っている。
 
「僕は、典型的なウィングではないから。今日はすごくうまくいったよ。そこから中に入ったり、外に流れたり、ポジションを変えながら。ヒートマップで見たら、真ん中で起用されても、外で起用されても、僕のプレー自体はそんなに変わらないと思うよ」
 
 ポジションそのものが問題なのではなく、必要な時に必要な場所に顔を出すタイミングでボールを貰えるか。そして、そこで自身のリズムを作り、チームにリズムをもたらしていくことができるか、が問題だった。

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