【選手権】桐蔭学園をPK戦の末に退けた"関西公立の雄"の底力

2018年01月02日 川端暁彦

熟練の将は「一試合、一試合と必死にやるだけ」。

土壇場で一条の相坂が同点ゴール!PK戦に持ち込み、桐蔭学園を下した。写真:滝川敏之(サッカーダイジェスト写真部)

[高校サッカー選手権・2回戦]桐蔭学園2(2PK3)2一条/1月2日/等々力陸上競技場

 ペナルティスポットからMF川崎航太の放ったシュートがゴールネットを揺らした瞬間、"関西公立の雄"奈良市立一条の2年連続16強が決まった。
 
「ホントは先に点を取って、パッと逃げ切るような試合がしたいんやけど」
 
 そう言って破顔したのは28年前の1989年からチームを率いる名物指揮官、前田久監督だ。等々力陸上競技場で行なわれた地元・桐蔭学園との2回戦。常に相手に先行される展開から、後半アディショナルタイムにパワープレーが実って同点に追い付き、最後はPK戦で「今風に言うと、"神ってる"セーブ」(同監督)のGK古川裕斗に救われて薄氷の勝利を収めた。地区予選決勝も似たような試合展開だったので自然と周囲から突っ込まれることになったが、もちろん「狙ってへん」試合運びである。
 
 一条は市立高校と言っても、たとえば市立船橋のような市が全面的にバックアップしているスポーツ学校という位置付けにあるチームではない。伝統的に学校での部活動が盛んという土壌はあるものの、体育科があるわけでもなく、スポーツ推薦はもちろんない。人工芝のグラウンドを持つと言っても、そのスペースはごくごく小さなもの。メインは土のグラウンドだ。それだけに、2年連続の16強入りは快挙と言っていいだろう。
 
 近年の奈良県は中高年代で有力選手の多くが近隣の府県に流出するようになっており、県内の各チームが選手集めに苦労する現実がある。推薦のない一条はその点でもディスアドバンテージがありそうだが、前田監督は「でも、ここまでの先輩たちが頑張ってきてくれたおかげで、推薦で私立に行くような子は来なくとも、すごく意欲のある子が来てくれるようになった」と前向きに捉えている。
 
 加えて、「いま教え子がふたりA級(ライセンスの)コーチになって指導してくれていて、Aチームに上がってくる1、2年生の質がすごく高くなった。彼らが底上げしてくれているんです」と言うように、コツコツと積み上げてきた指導が実を結びつつある。

 桐蔭学園戦では序盤こそ選手たちに固さが目立ったものの、前半の半ばからディフェンスラインを強気に高く保った中でのプレッシング、素早い攻守の切り替えが光る組織的なサッカーを見せた。また「本人に『プロもあるぞ』と言っている」大型DF酒本哲太がこの試合でも能力の高さを示すなど、"個"に関しても見応えのあるチームになってきたのも確かだ。
 
「50歳を過ぎてから一個一個の得失点に執着しなくなった。(この2回戦も)絶好機で外すのを観て『ああ、今日はないな』と思っていた」と笑う前田監督だが、勝負へのこだわりがないわけではない。むしろ逆だろう。この日も1点ビハインドの展開で残り7分とみるや、猛然とパワープレーの指示を出して最後まで勝利の可能性を探り、見事に勝利を引き寄せてみせた。
 
「一試合、一試合と必死にやるだけ」と言う熟練の将に率いられたチームは、チーム史上初の8強入りを懸けて、3日の3回戦で高円宮杯プレミアリーグWESTに所属する強豪・米子北との一戦を迎える。
 
取材・文●川端暁彦(フリーライター)

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