【小宮良之の日本サッカー兵法書】シャビ・アロンソ、グリエーズマンが示したスカウティング、育成の難しさ

2017年12月10日 小宮良之

人間の成長は天性や素質だけでは測れない

スター選手のなかでも、少年時代はあまりパッとなかったという例は決して少なくない。ある意味、夢のある話ではあるが、それだけにスカウトや育成に携わる者の苦労は絶えない。 (C) Getty Images

「ポジティブな才能の余白を見出せる」
 
 それが、優れたスカウトの条件といわれる。「伸びしろ」というのか。「ポテンシャル」という言い方でも外れてはいない。
 
  例えば、昨シーズン限りで引退したスペインの偉大なピボーテであるシャビ・アロンソは、ユース年代までは小さく非力で、傑出して評判の良い選手というわけではなかった。
 
 無理なロングパスを試みては、その精度が低かったり、タイミングがずれていたりもした。スピードがあるわけでもないし、フィジカルが強いわけでもない。フェイントで相手を抜くというようなプレーも彼はしなかった。
 
 むしろ、兄であるミケル・アロンソの方が、スピード、ドリブルテクニックに優れており、ユース年代までは目立っていた。
 
「プロで成功するのは、兄ミケルの方だろう」
 
 周囲では、そう言われていた。
 
 しかし、結果は逆だった。ミケル・アロンソはレアル・ソシエダでプロになったものの、レギュラーポジションを確保できず、移籍を余儀なくされた。そしてカテゴリーを下げ、人知れずスパイクを脱いでいる。
 
「弟のシャビは、ピッチ全体が見えていた。パスを出すタイミングも、実は悪くはなかった。受け手の方に能力がなかったんだ。シャビに足りないのは、パスの強度と精度だけ。見えていることとタイミングは優れた素質であり、技術的不足はトレーニングで補えると思った」
 
 当時のスカウトは、そう言ってシャビ・アロンソに期待をかけたが、その通りに才能が開花したのである。
 
 しかし、このスカウトは後に、「素質ではシャビ・アロンソを越える」という若手選手を見出して目をかけたが、こちらは大成することはなかった。トップチームには昇格したものの、先発には定着できず。怪我に悩まされたのもあったが、性格的に天才肌で、努力に対して無頓着だったのである。
 
 人間の成長は、単なる天性や素質だけでは測れない。その性格、精神に大きく左右されるからだ。キャラクターは人によって様々に異なり、一元化・画一化するのは難しい。

次ページ思った以上の成果が出ていないJの育成…

みんなにシェアする
Twitterで更新情報配信中

関連記事