このままでは終われない――著書『壁を超える』で川口能活が伝えたいこと

2017年10月11日 広島由寛(サッカーダイジェストWeb編集部)

「目の前のことから、目を背けず、逃げない。妥協しない」

今季もJ3の相模原でプレー。42歳を迎え、ますます円熟味は増した。写真:佐藤明(サッカーダイジェスト写真部)

 川口能活は、身振り手振りを交えて話す。
 
 そのしぐさは、時に大きくなる。身長は180センチと、プロのGKとしては決して大柄なほうではないが、右腕がにゅっと前に出てくると、形容しがたい威圧感がある。
 
"これが世界を相手に戦ってきた手か"と、一瞬のけぞってしまう。5本の指を大きく開いたその手に、目が釘付けになる。
 
 中学、高校で全国制覇を経験。高卒で名門・横浜マリノス(当時)に加入し、2年目には守護神の座に就く。代表では28年ぶりの五輪出場に貢献し、A代表では98年フランス大会を皮切りに、4度のワールドカップでメンバー入りを果たす。日本人GKとして初めて欧州移籍を実現すれば、J1からJ3の全カテゴリーでプレーし、トータル500試合出場まであと数試合に迫る。
 
 そのキャリアは順風満帆。42歳を迎えた今季もバリバリの現役としてピッチに立つ。
 
 しかし――栄光の数と同じぐらい、もしかしたらそれ以上に、苦難や挫折があった。長期離脱を余儀なくされる二度の大怪我をしたし、ゼロ円提示を受けたこともある。
 
 眠れない夜をいくつ数えてきたのか。それでも、心が折れて、すべてを投げ出したことは一度もない。不屈のメンタルで、目の前に立ちはだかる壁を乗り越えてきた。
 
 自身初の著書『壁を超える』を上梓した"ヨシカツ"に話を訊いた。
 
――◆――◆――
 
――改めてこれまでの歩みを振り返ると、いくつもの「壁」がありましたね?
 
「そうですね。自分は不器用というか、馬鹿正直で真面目な性格だからか、何事にも正面から向き合って、チャレンジしてきたつもりです。目の前で起こっていることから、目を背けずに、逃げない。妥協しない。それが自分の生き様というか、当たり前のことでもある。なので、ある意味、『壁』と思っていないかもしれませんね。
 
 とにかく、どこかコンプレックスがあるんですよ。自信があるのかないのか分からないんですけど、不安があっても、それに向かってチャレンジする、トライする。その不安もまた、『壁』なんだと思います」
 
――コンプレックス? むしろエリートではないのですか?
 
「僕は静岡の富士の生まれで、富士はどちらかと言えば野球が盛んな土地なんです。サッカーでは、清水や藤枝と比べると、どこかで引け目を感じてしまう。僕にとってのエリートは、清水や藤枝の人たち。もともとのスタートがそういう感じなんですよ」
 

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