【蹴球日本を考える】浦和を翻弄した川崎の駆け引きの巧さ。とりわけ光った中村憲剛の機転

2017年08月24日 熊崎敬

ゆっくりとつなぐのは仮の姿。敵の足が止まったところで……。

自らのミスパスを拾って急加速。中村が機転を利かせたプレーで小林の先制点を引き出した。写真:徳原隆元

 気温29度、湿度87%。記者席に座っているだけでも息苦しいのだから、選手はかなりしんどかったと思う。そしてアジアのベスト4に大きく前進したのは、暑さの中で効率のいいプレーを見せた川崎だった。
【ACL準々決勝 川崎3-1浦和 PHOTO】ホームの川崎が小林悠の活躍で浦和に先勝! 

 どちらも無理に仕掛けたりせず、後方からじっくりつなぐサッカーをしていたが、川崎にあって浦和になかったものがあった。それは変化だ。
 
 多くの時間、敵の陣地で試合を進めた川崎は、短いパスを足下でつなぎながらも要所でプレーを変化させた。それはパスの長短や角度や緩急、さらにはドリブルでの仕掛けである。
 
 小林が決めた先制点は、中村のアシストから生まれた。家長に出した中村の縦パスがそのまま流れ、浦和の選手が止まったところで中村が加速。そのまま左サイドをえぐり、小林のゴールをお膳立てした。
 
 エウシーニョが決めた2点目は、ダイナミックな縦への攻撃から。エドゥアルド・ネットの球足の長い縦パスに小林が反応、裏に抜け出す。小林のシュートがGK西川に阻まれたとき、チャンスは潰えたかと思われたが、視界の外からエウシーニョが飛び込んできてボレーを突き刺してしまった。ゆったりとした流れの中で、一気にリズムを変えてきたのだ。
 
 3点目は左サイドで短いパスを回しながら徐々に敵陣に迫り、エリアに近づいたところで家長が縦に加速。ドリブルで遠藤をかわし、絶妙なクロスを小林に届けた。
 
 ゆっくりとパスをつなぐのは仮の姿。敵の足が止まったところで、川崎は一気に仕掛けてゴールを陥れた。駆け引きの妙によって浦和を翻弄した。
 
 川崎の3ゴールはどれも理にかなったものだったが、私がとりわけいいなと思ったのは1点目だ。
 
 前述したように、このゴールは動き出した家長への中村のショートパスが合わず、縦に流れたところから生まれた。ボールはゆっくりとゴールラインに転がり、浦和の選手も安心したのか足を止めた。
 その瞬間、ミスパスを出した張本人の中村が走り込んでボールを拾い、左サイドをえぐってアシストを決めたのだ。
 
 このプレーは、サッカーの大事な要素が詰まっている。
 敵味方が入り乱れた中でボールを足で操るサッカーは、失敗が多発するスポーツ。凡人はミスをしたところで落胆するが、中村ほどの名手になるとミスを逆手に取って敵を翻弄してしまうのだ。賢くなければ、こういうプレーはできない。
 
 サッカーではミスなくプレーするのは不可能に近い。ミスを減らすことは、もちろん大切。だが同時に、ミスが出た時にそれを利用する柔軟な発想を持つことが勝利への近道だ。
 
 中村のようにミスを利用できたら、それはもうミスではない。サッカーは結果論、勝った者が偉いのだから「あれ、狙ってやったんですよ」と言えば、誰も反論できないのだ。
 
取材・文:熊崎 敬(スポーツライター)
 
みんなにシェアする
Twitterで更新情報配信中

関連記事