【識者コラム】東京五輪後の新国立「球技専用化」は賛成だが、そもそもの疑問は…

2017年08月17日 後藤健生

「多目的競技場は時代遅れの発想だ」

現在ロンドン五輪のメインスタジアムもウェストハムの本拠になっている。(C)Getty Images

 2020年の東京五輪に向けて、現在建設中の新国立競技場だが、五輪後の後利用を巡りスポーツ庁の作業部会が7月26日に行なわれ、大会終了後には陸上トラックを撤去し、「球技専用スタジアム」に改修される方向で調整が進んでいる。五輪メインスタジアムの後利用について、これは妥当な判断なのか。サッカージャーナリストの後藤健生氏に見解をいただいた。

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 旧国立競技場は、1964年の東京五輪で僕(筆者)が初めてサッカーという競技と出会った思い出のスタジアムだった。「サッカーの聖地」であると同時に、91年の世界陸上でカール・ルイスが疾走した日本最大の陸上競技場でもあり、また80年代にはラグビーのビッグゲームに超満員の観客が沸いた。
 
 つまり、旧国立は陸上とフットボール兼用の多目的競技場だったのだ。
 
 かつて、五輪のメインスタジアムはそのほとんどが大会後も多目的競技場として使われた。例外はサッカー専用のウェンブリー(48年ロンドン五輪)とクリケット専用のMCG (メルボルン・クリケット・グラウンド/56年メルボルン五輪)くらいで、どちらも五輪開催時には陸上競技のトラックを特設して使用し、大会後は元の形に戻している。
 
 しかし、スポーツ先進国で最近開かれた五輪のメインスタジアムは、すべて大会後に用途変更されている。
 
 96年アトランタ五輪のメインスタジアムは野球場に改装されてアトランタ・ブレーブスの本拠となり(2016年限りで移転)、00年シドニー五輪のそれは陸上トラックを撤去してフットボールとクリケットの兼用となった。そして、今まさに世界陸上が開催されている (8月13日に終了)12年五輪のメイン会場「ロンドン・スタジアム」は、陸上トラックを残したまま全面改装されてプレミアリーグ、ウェストハムの本拠となっている。
 
 つまり、今では「多目的競技場」というのは時代遅れの発想であり、メインスタジアムは五輪閉幕後に改装され、その国で最も集客力のあるスポーツに使われるのが普通なのだ。 巨大スタジアムを活用するには、そうするしかない(詳しくは拙著『世界スタジアム物語』を参照)。

次ページ設計前から「後利用」について議論してこなかったことが問題。

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