【総体】亡き妹と誓った約束の場所へ――日藤のズラタンが見せたゴールパフォーマンスの意味

2017年07月31日 松尾祐希

ファーストタッチで値千金の同点弾。大仕事の後に一本指を空に向かって突き出す。

同点ゴールを決めた三田野。最初のタッチでゴールに流し込んだ。写真:松尾祐希

 0-1で1点ビハインドの状況で迎えた後半21分。アップ中から大声を挙げて自らを鼓舞し、佐藤輝勝監督から選手交代を告げられると「よっしゃー」という雄叫びを上げていた"日藤のスーパーサブ"FW三田野彗がピッチに送り込まれた。

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「今季は県リーグの開幕からずっとスタメンだったのですが、柏木にレギュラーを取られて、もう1人のFW、(ギブソン・)マーロンも総体県予選準決勝で全国行きを決めるゴールを決めた。それもあって自分の出場機会が少なくなっていた。だから、試合に出たら流れを変えてやろうと思ってピッチに入った」
 
 そこにあったのは、なんとかしてチームに流れを引き戻したいという想いだ。溢れんばかりのエネルギーを持ってグラウンドに立つと、歓喜の瞬間は交代出場からわずか2分後に訪れる。左サイドでFWギブソン・マーロン(3年)が粘って中央に折り返すと、ボールは三田野のもとへ。これを巧みなターンで相手を外し、最後は右足でネットを揺らした。その1分後にチームは逆転ゴールを奪ったが、彼の得点がなければ、凱歌を響かせることはなかったはずだ。
 
 彼のファーストタッチが値千金の同点弾。いきなり大仕事をやってのけると、感情を爆発させて、想いを噛み締めるように仙台の空に一本指を突きだす。この一見見落としてしまいそうなゴールパフォーマンス。これは妹に対して行なったものだったと試合後に明かした。
 
 4人兄弟妹の長男として生を受けた三田野だが、昨年の12月に妹・純さんが突然の病で他界。まだ11歳だった。高校1年生の弟や亡くなった純さんと双子であるもうひとりの妹はサッカーをしていなかったが、自身の影響でサッカーの道を志したという純さんは、自身にとってかけがえのない存在。自分と同様にサッカーに打ち込み、所属していた横須賀シーガルズでは関東大会にも出場して活躍をした。そういう想いもあって、三田野は兄妹という想いだけではなく、サッカー仲間という感情も持っていた。それだけに悲しみは安易な言葉で言い表わせない。
 
「妹はきょうだいでもあり、サッカー友達。一緒に練習したり、ウイニングイレブンをやったりしていて、そこでもつながっていた。だから、2倍悲しい。家族としても辛いけど、仲間をなくした辛さもあった」
 
 だからこそ、三田野は覚悟を決めた。
「妹が亡くなる3か月前の9月にBチームに落された。大した怪我ではないのに、そこから長期で休んでしまって腐ってしまった」
 
 それまでは精神的な弱さが目立ち、くすぶっていたところがあった三田野。しかし、これをきっかけに断固たる決意でサッカーに取り組み、多少のことでは根を上げなくなった。全ては「兄妹でサッカー選手になって、日本代表になろう」と話していた妹の夢のため。自分が叶えなければいけないと心に強く誓ったのだ。

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