天皇杯での胸熱くなる光景。清水の人々はなぜ「いわきFC」に力いっぱいの拍手を送ったのか

2017年07月14日 手嶋真彦

ターンオーバーを使わずに臨んだ清水。いわきFCをリスペクトした戦いで勝利を収める。

善戦した「いわきFC」にスタンディングオベーションで応えた清水サポーター。試合後、スタジアムは万雷の拍手に包まれた。写真提供:いわきFC

 清水エスパルスのファン一人ひとりに、聞いて回ったわけではない。しかし聞かずとも、心の動きは伝わってきた。
 
 聞こえてきたのは拍手の響き。やがてスタジアム中が共鳴し合い、万雷となる。しかも、スタンディングオベーションだ。

 
 敗れた者たちへの同情の拍手でも、「今一度盛大な拍手をお願いします」と司会進行に促されての形式的な拍手でもない、いわば正真正銘の大音響の拍手。敗れた「いわきFC」がどんな試合を見せたか、清水のファンたちのこうした反応が物語っている。
 
 拍手せずにはいられない、立ち上がらずにはいられない、この気持ちを伝えたい。清水のファンはおそらく勝利を喜ぶ以上に、いわきFCを讃えていた。純粋な賞賛はしばらく続いた。胸が熱くなる光景だった。
 
「本気で戦ってくれたエスパルスさんに感謝します。いいゲームでした」
 報道陣を前にした大倉智代表取締役のこの言葉も、単なる社交辞令ではもちろんあるまい。いわきFCの総監督を兼務する大倉代表取締役の言う「いいゲーム」は、片方だけでは成り立たない。ターンオーバーは使わず、いわきFCを十分にリスペクトした戦いの末、格上ならではの勝利をきっちり収めた清水も、そうした点で賛辞を受けてしかるべきだ。
 
 試合を振り返ろう。
 
 いわきFCは、よく盛り返した。キックオフから1分と経たず、ロングスローからのバックヘッドという単純な形であっけなく先制を許すと、さらにピンチが続く。大量失点もありえるのではないか。そんな想像すらできる立ち上がりとなった。セットプレーの対応に不安があり、奪回後のビルドアップは半ばで途切れてしまう。清水の守備網に穴が少なく、中盤でプレスを掛けられては、自滅でロストしてしまうケースが多い。
 
 意図的にボールを持たされては、打開できない。そんな展開が続くなか、流れを変えたのが平岡将豪の果敢な仕掛けだった。菊池将太と植田裕史のシュートは、どちらもGKに阻まれる。しかし、この一連の攻めを境として、いわきFCがペースを掴む。清水の守備対応を後手、後手に回らせるパス回しや、波状攻撃も繰り広げながら、ゴールへと近づいていく。フィールドプレーヤー10人全員が敵陣に入り、最前線に4~5人が進出する、そんなビルドアップを繰り返す。

次ページいわきFCは、きわめて重心の高い布陣でリスクを取り続けた。

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