【小宮良之の日本サッカー兵法書】宮市へのエール――度重なる怪我にも屈しなかった先達に続け!

2017年07月04日 小宮良之

その瞬間、痛み以上の絶望に襲われる…

キャリアにおいて重要な時期に、治療やリハビリに大事な時間を費やさなければならないもどかしさと悔しさは相当なものだろう。この試練を乗り越え、宮市がさらに大きな成長を遂げることに期待したい。 (C) Getty Images

 6月28日、ブンデスリーガ2部のザンクト・パウリは、所属する元日本代表FWの宮市亮が右膝前十字靱帯断裂で戦線離脱したことを発表した。

 宮市は、2015年7月に左膝前十字靱帯断裂という全治約9か月の重傷を負い、長い時間を治療とリハビリに費やし、ようやく復帰して軌道に乗ったところだった。まさに、これからというところで、再び大怪我に見舞われることに……。
 
 その絶望感は、本人にしか分からないだろう。
 
 サッカー選手にとって、怪我はほとんどの場合、唐突に訪れ、そして容赦がない。
 
 とりわけ膝の怪我は、多くの選手生命を奪ってきた。たとえ復活できたとしても、再び同じ状況に追い込まれるケースが少なくない。それは、心をへし折られるほどの衝撃だという。
 
 拙著『アンチ・ドロップアウト』(集英社)で、天才といわれた財前宣之のノンフィクションを書いた。彼は、1年間に2度の左膝十字靱帯断裂を経験し、復活しかけた3年後、今度は右膝前十字靱帯を断裂している。その時を振り返って財前が語った言葉が、忘れられない。
 
「本当にやめようと思いました、サッカーを。やりたくても、サッカーをやれないわけじゃないですか? 靱帯(損傷)は、復帰までに半年以上、約1年ですから。牢屋に入っているようなもんですよ」
 
「靱帯を切ると、信じられない痛みで、もんどり打って倒れるんですけど、3分もすると激痛はやむんです。でも、ドクターから注射針を幹部に差し込まれ、血が出るとアウト。靱帯が切れているというサインなんです」
 
 痛み以上の絶望が襲うのだ。
 
 前十字靱帯断裂は、長いリハビリを強いられ、辛い日々が続くが、実は後遺症も酷い。膝に靱帯を補強するためのビスが入り続けるため、私生活では正座もままならず、冬にはぎしぎしとビスが音を立てる。冬はいきなり身体を動かすと、膝が抜けた感覚になる。
 
 サッカー選手は大きなリスクを抱え、日々の戦いに挑んでいる。そして、そこで屈しない姿が、周りに勇気を与える。

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