焦燥が透けて見えるハリルの試行錯誤ぶり。最大の懸念は理想のボランチ探しか

2017年06月14日 加部 究

日本代表の命運が懸かる一戦に臨んだ昌子は、シリア戦までに出場6分間のみだった。

大胆な変革に踏み切ったハリルホジッチ監督だったが、イラク戦では大きな効果は見られなかった。写真:佐藤明(サッカーダイジェスト写真部)

[ロシアワールドカップ・アジア最終予選]日本 1-1 イラク/6月13日/PASスタジアム

 勝点3が欲しい重要な一戦で、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は、いくつもの新しい選択をした。守備の要となる逆三角形を形成したのは、昌子源、遠藤航、井手口陽介と、いずれもワールドカップ予選では初スタメンの選手たちである。さらに香川真司を欠いたトップ下には原口元気を、久保裕也は左サイドに据えた。言うまでもなく、故障者が連なり苦肉の策だった。ただし指揮官の能力が問われるのは、こうした窮状を想定して、どれだけ計画的に準備を施せるかである。
 
 理解に苦しむのは、よりによって自ら重要だと定義づけたイラク戦に向けて、かつてない大胆な変革を図ったことだ。確かに「日本代表の門戸は誰にでも開かれ、常連も決して安泰ではない」というメッセージは伝わった。しかしこの選択が、現実にテヘランのピッチで効果を示したかと言えば、大きな疑問符しか残らない。
 
 例えば、昌子は新戦力ではないし、クラブレベルでは十分な経験を重ねている。昨年末のクラブワールドカップでのパフォーマンスを見れば、吉田麻也のパートナーとして最適候補なのは、衆目の一致するところだろう。ところがこれまでハリルホジッチ監督がチャンスを与えたのは、昨年7-2で大勝したブルガリア戦(キリンカップ)の残り6分間だけだった。3月のタイ戦は57分間で3点差をつけ、予選を経験させるには格好の条件が揃ったが、優先させたのは力の分かり切った本田圭佑、清武弘嗣、宇佐美貴史のコンディションチェックだった。結局昌子は、ようやくシリア戦で初めて先発し1試合をこなしただけで、日本代表の命運が懸かる一戦に臨むことになった。
 
 それでもイラク戦の昌子は、前へのチャレンジ、危機察知、ラインコントロールを含めて及第点のプレーを見せている。だがチームを指揮する立場からすれば、新しいカードを切る今回だからこそ森重真人というセーフティネットも用意しておくべきだったのではないか。実際3月のUAE戦(アウェー)では、心身ともに痺れるような展開が想定されたからこそ大ベテランの今野泰幸を起用したはずだが、今回の奇抜な選考と見比べると、ますます整合性が取れない。現時点で戦力とは見込み難い加藤恒平や三浦玄太の招集は、本大会への出場を決めてからでも遅くはなかった。

次ページ適任を見出せない懸念のポジションで選択肢は広がったが……。

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