【小宮良之の日本サッカー兵法書】若い才能を開花させるには、教えるのではなく、気付かせること

2017年06月08日 小宮良之

教えたい気持ちを我慢する…だからといって放置はしない

5大会ぶりのU-20W杯での歩みは、ラウンド16で終わった。世界の舞台を経験したこの世代は、今後、どのような成長を遂げていくのか楽しみであり、興味深い。 写真:滝川敏之(サッカーダイジェスト写真部)

 U-20ワールドカップ、日本はラウンド16でベネズエラに延長戦の末に0-1で敗れ去ったが、試合を重ねるごとに、チームは逞しさを増していった。

 立ち上がりに失点が多い点など、流れを失うと取り戻せず、ディフェンスの甘さなどは目についた。しかしエース小川航基を膝の怪我で欠きながらも、抜群のスキルを見せ、戦い方をアジャストし、この世代が、"世界に通用する"ことを証明した。ベネズエラ戦では、成長著しい姿を見せている。
 
 試合で駆け引きを重ねるなか、若き日本の猛者たちは成熟していった。誰に言われるのでもない。自らが思考し、決断することで、短期間に、見違えるほどに腕を上げた印象がある。
 
 育成年代としては仕上げの大会、この舞台に立った意味は決して小さくはない。
 
<選手を育成する>
 
 それは簡単なことではない。人を育てる、そこに絶対的な正解がないからだろう。
 
「教えたい気持ちを、どれだけ我慢できるか」
 
 それが世界最高峰のリーガ・エスパニョーラの育成で語られる、指導者の基本である。
 
 促す、導く――。
 
 こじ開けてしまったら、中身も外見もグシャグシャになる。指導者としては、ここをこうすれば良くなるのに、というプレーが幾つも見えるだろう。しかし一つひとつまで細かく矯正するようなら、良い部分の芽まで摘み取ってしまう。選手自身が気付き、良い部分を伸ばしていくような指導が必要なのだ。
 
 例えば、ストライカーのようなポジションで、それは顕著に表われる。
 
「ストライカーは育てるのではない。生まれるのだ」
 
 それは暗黙の了解としてある。
 
 もっとも、放置しておけば良いストライカーが育ってくるのか、といえば、そうではない。
 
 スペインが生んだ最高のストライカーのひとりであるラウール・ゴンサレス(レアル・マドリー他)は、十代前半でFWの得点パターン練習を毎日のように反復練習した。
 
 プルアウェイして、ボールを受け、ニアとサイドに打ち分ける。ひとつの得点パターンのディテールを積み上げることで、自身の得点のかたちを確立していったのだ。

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