最高の勝利の形――自死寸前まで追い詰められた重症の青年を快方へ向かわせたものとは

2017年05月22日 加部 究

「誰にも相談ができず、我慢するしかないと思っていた」

都内で活動するフットサルクラブ「オレンジソックス」。創設時から代表を務める宗像敏也氏(最前列右から3人目)が、精力的にクラブを牽引する。

 どうもオレンジに元気がない。本家オランダ代表は、EUROに続きワールドカップ予選でも苦境に立たされ、ダニー・ブリント監督が解任された。Jリーグでは「しぶとく落ちない」ことが伝説化されてきたが、新潟だけが継承中で、大宮、清水が立て続けに降格を経験した。ただしフットサル界は対照を成し、シュライカー大阪がFリーグに続き全日本選手権も制し、オレンジ旋風をアピールしたばかりだ。そして私的な話で恐縮だが、実は僕もオレンジカラーのチームから元気をもらっている。
 
 オレンジソックスは、「障害者と健常者が垣根を越えて活動する」ことをモットーとするフットサルクラブだ。知人に誘われて幸い活動拠点も徒歩圏内なので、毎週通うようになった。
 
 クラブ代表の宗像敏也くんは、誕生日を迎えたばかりの34歳。代表選挙では、創設から8年連続して満票を獲得しており、メンバーからは揺るぎない信頼を寄せられている。ボランティア活動の計画から当日のメニュー作りまでを精力的にこなし、明快に伝達し牽引していく姿を見れば、理想のリーダーとしか映らない。
 
 だがこれまでの足跡に耳を傾ければ、想像を超えてヘビーだ。
「精神的に不安定になると気持ちが悪くなり、トイレに入って嘔吐や下痢を繰り返す。そんな症状が出始めたのが小学5年生の頃でした。誰にも相談が出来ず、我慢するしかないと思っていました。ある時テレビをつけたらパニック障害を取り上げていて、これが当てはまると……」
 
 やがて引きこもりになり、一念発起して高校受験の会場に向かうが、どうしても校門の中には踏み込めず、6時間近くも徘徊してから帰宅した。
 
「親はそれを知りません。滑り止めの方も普通に受験をして落ちたことになっています」と、今だから笑って話せる。
 
「結局定時制の高校に進学するのですが、症状は悪化するばかり。このままでは仕事も出来ないし、死ぬしかないかな……、と考えていました」
 
 20歳を過ぎた頃にカウンセリングを受診できる病院が見つかり、少しずつ社会復帰へ向けて歩み出す。
 
「人込みがダメで電車にも乗れない。最初は人の少ない早朝とかに一駅乗ることから始めました」
 
 結局重症の青年を快方へと向かわせたのはスポーツだった。

次ページ怒声や誹謗がひとつもなく、心地よく真剣味溢れる時間が流れていく。

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