【蹴球日本を考える】日本人は真似できない!? 王国のストリートの趣を漂わせるエデル・リマの技術

2017年05月08日 熊崎敬

試合は見どころの乏しいスコアレスに終わったが……。

磐田の守備網を独特なリズムのドリブルで突破するE・リマ。周囲との連係も向上し、本領を発揮しつつある。写真:小倉直樹(サッカーダイジェスト写真部)

[J1リーグ10節]甲府 0-0 磐田/5月7日/中銀スタ

 ゴールデンウィーク最終日、なんとも煮え切らない一戦を見る羽目になった。
 
 63分、宮崎の退場によって磐田が10人に。甲府が数的優位に立った。

 それまでも流れを掴んでいたこともあり、ホームチームが勝利に大きく近づいたかと思われた。
 
 ところが世の中、何が災いするか分からない。
 
 甲府は、自陣を固めた磐田を攻めあぐねた。敵陣でボールを支配し、両サイドの深いところでパスを回したが、崩しにかかるところで次々とミスが出た。崩せないから今度はクロスを放り込むが、単調な攻撃は敵に弾き返されるばかり。

 結局、退場者が出てから一度もチャンスらしいチャンスを創れないまま、終了の笛を聞くことになった。
 
 数的優位に立った甲府が、それまで掴んでいたリズムを失ったのはなぜか。

 甲府には守りを固めた敵を崩す技術が欠けていたが、それ以前に足りなかったのは精神的な余裕だろう。格上としてプレーする機会が少ないから、明らかに有利な状況に立って逆に焦ってしまうのだ。

 こうした課題の克服が吉田監督には求められているが、これは決して簡単ではないだろう。チームの体質を変えなければならないからだ。
 
 見どころの乏しいスコアレス。だが、収穫もあった。甲府の左ストッパー、エデル・リマだ。今季、甲府の試合を観戦するのは2度目だが、観るたびに私はこの選手が好きになる。
 
 ボール扱いが正確でスピードがあり、何よりリスクを冒すことを恐れていない。この日も自陣から持ち上がり、行く手を塞ぐふたりの間を巧みに抜いてチャンスをお膳立てするシーンがあった。
 
 安全第一が求められるDFは敵に寄せられると慌ててしまうものだが、リマはほとんど慌てない。背中でしっかりと敵を抑えて器用にボールを持ち出し、敵を置き去りにしてしまう。
 こうしたプレーができる日本人選手はとても少ない。

 それは子どものころから、チーム単位で練習することが多いからではないだろうか。チーム単位で練習すれば無理に自分で抜きにかかるよりも、パスを出した方が安全で効率がいいからだ。
 
 一方、ブラジルでは未舗装の路地で、延々と1対1で勝負している子どもを見かける。1対1ではパスを使えず、目の前の敵を抜こうと思ったら、嫌でも身体を使うしかない。こうした環境で遊ぶことで、自然と身体の使い方を覚えていくのではないだろうか。
 
 どうやって目の前の敵と入れ替わるテクニックを身につけたのか、今度、甲府の試合を観に行く機会があったらリマに尋ねてみようと思う。
 
取材・文:熊崎 敬(スポーツライター)
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