【蹴球日本を考える】ドローに持ち込まれた川崎の痛恨、持ち込んだ指揮官の手腕

2017年04月22日 熊崎敬

これは勝つしかないという流れだった川崎。最後に待っていた“落とし穴”。

見事な逆転弾を決めた中村と、的確な采配を見せた小林監督。ともに高評価に値するパフォーマンスを披露した。写真:滝川敏之(サッカーダイジェスト写真部)

 90分+5分での失点。勝利を目前にして、川崎が勝利を逃した。
 この引き分けは痛い。終了間際に失点したことはもちろん、従来の課題を克服する内容の伴った試合をしていたのに、勝利を逃してしまったからだ。
 
 この試合を含めて、公式戦12試合で8分け。今季の川崎はひと言でいえば勝ち切れない。
 怪我人続出という厳しい台所事情を考えれば最悪ではないが、それでも試合を観ているとフラストレーションが溜まる。
 それは、ボールは支配してもチャンスが生まれないからだ。もっといえば、パスが足下にしかつながらず、意外性やダイナミズムに欠ける。
 
 この清水戦も、前半はもどかしい内容だった。各駅停車でしかボールが動かず、逆にカウンターから先制点を献上した。
 今日も同じかと思ったら、後半は流れが変わる。エドゥアルド・ネットを下げて、森谷投入。これが効いた。
 
 前半はE・ネットが最後尾に下がって攻撃を組み立てたが、ショートパスが多く、むしろ清水のプレッシングに捕まるシーンが目立った。だがE・ネットから中村に指揮権が移り、攻撃に勢いが生まれた。中村が中長距離のパスを駆使したことで、サイドのスペースを突けるようになり、各駅停車が準急くらいにスピードアップした。
 
 後半に生まれたふたつのゴールは、この変化からもたらされた。
 同点弾は三好の逆サイドのスペースを突くクロスから、逆転弾は三好のクロスから小林がエリア内でドリブル、空いたスペースに中村が走り込んで決めた。どちらも各駅停車では生まれないゴールだった。
 
 前半の課題を後半に克服、しかも逆転弾を決めたのは中村。これはもう勝つしかないという流れだったが、最後に落とし穴が待っていた。
 清水に反撃を許したのは、中盤にスペースを空けてしまったからだ。守りのバランスが崩れ、GKチョン・ソンリョンの対応も悪かった。精神的にもダメージが残るだろう。
 
 川崎にとって手痛いドローは、清水にとって価値あるドローだ。
 今季初めて清水のゲームを観戦したが、正直なところ技術レベルは低かった。最終ラインや中盤での組み立て、または自陣でボールを奪った直後に「え?」というミスが出る。ボールを操るということでは、川崎には到底及ばない。
 
 だが、この戦力で五分の成績を維持している。これは小林監督の手腕を評価すべきだろう。
 
 前半はFW金子がE・ネットを潰したところからの反転速攻が効き、終盤はチアゴ・アウべス、ミッチェル・デュークというパンチ力のある外国人を投入して、乱戦模様に持ち込んだ。限られた駒を上手く使い回して、川崎の足下を揺さぶることに成功した。
 
 昇格組ながら中位につける清水。大分、山形、徳島、清水と過去4チームをJ1に昇格させた指揮官の、現実を見据えた手堅い戦術が生きている。
 
取材・文:熊崎 敬(スポーツライター)
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