【蹴球日本を考える】川崎相手に善戦ドロー。甲府が守備的布陣でも守備一辺倒にならなかったワケとは?

2017年04月09日 熊崎敬

攻守両面で質の高さを見せたふたりの助っ人。

巧みな足技で甲府の最終ラインに余裕をもたらしたエデル・リマ。攻守にわたって存在感を示した。(C) SOCCER DIGEST

 91分に先制しながら、2分後に追いつかれてドロー。勝点2を取り逃した形になったが、甲府にとっては得るものの多い一戦となった。
 
 昨季、2試合とも0-4と大敗した川崎戦で勝点を挙げられたのは、なぜか。
 
 ひとつは川崎が精彩を欠いたからだ。
 怪我人続出の川崎はベストの布陣が組めないこともあり、単調な攻撃に終始した。パスは回るが近場、それも足下ばかり。これは対処しやすい。
 
 だが敵の事情を差し引いても、甲府が充実していたことは間違いない。
 
 終始、ボールを支配されたが、守備陣が崩される場面はほとんどなかった。それは5-3-2と守備的な布陣を敷きながらも、守備一辺倒にならなかったからだ。
 
 格上と対戦するチームが、守備に人数を割くのは常套手段だ。だが前夜、浦和に7失点した仙台のように、人数がいるだけというケースも少なくない。
 
 甲府はそうならなかった。それは川崎に圧力をかけられても、冷静にプレーすることができたからだ。弱いチームはボールを奪ったあとにミスをして墓穴を掘ることが多いが、甲府はしっかりとボールをつないで川崎を押し返した。
 
 攻守両面で多大な貢献を見せた選手がふたりいる。
 5バックの左ストッパーのエデル・リマと3ボランチの左を担当したオリヴァー・ボザニッチだ。
 
 前者は堅実な守りでピンチの芽を潰すだけでなく、最後尾から巧みなボールタッチで中盤に持ち上がり、チームに余裕をもたらした。
 後者は広大なエリアを走り続けて敵にプレッシャーをかけ、それだけでなく精度の高い左足のパスで攻撃に変化を加えた。また自陣深いところで敵に囲まれても確実にボールを守り、攻撃につなげた。
 
 ふたりは厳しい局面に置かれても、ほとんど慌てることがない。こういうひとりで難局を解決できる選手がいれば、周りも落ち着いてプレーできる。
 
 守備の時間が長かったが、攻撃も見るべきものはあった。
 攻撃陣では先発のウイルソン&堀米、控えのドゥドゥ&河本という4枚のカードを、吉田監督が巧みに使い回した。
 
 ウイルソン&堀米はカウンターだけでなく、前線からの守備にも汗をかき、後半、川崎が攻めに出てきたところにドゥドゥ、河本を投入。このふたりが、待ってましたというカウンターから値千金のゴールを決めた。
 
 敵の攻撃をかわし続け、一瞬の隙を見逃さずゴールを仕留める。それは甲府サポーターにとって最高の瞬間だったに違いない。
 
 勝点1に終わったが、内容は満点に近い。
 甲府というと毎年、外国人の編成に四苦八苦するが、今季は当たりだ。最終ライン、中盤、前線に4人の実力者がいるのは心強い。新任の吉田監督も求心力を高めている。
 
 リーグはまだ始まったばかりだが、もしかすると今季は残留争いとは無縁の秋が待っているかもしれない。
 
取材・文:熊崎 敬(スポーツライター)
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