【蹴球日本を考える】消えた“川崎のリズム”。解決策は中村憲剛の配置転換か

2017年02月23日 熊崎敬

3人目、4人目が次々に絡んで崩し切る攻撃が影を潜めた。

小林への好クロスで1アシストをマークした中村だが、全体的にリズムの良い攻撃は影を潜めた。(C) SOCCER DIGEST

 川崎の今季最初の公式戦は、結果も内容も期待外れに終わった。

 
 試合後の記者会見では、鬼木新監督に多くの質問が投げかけられた。その中で気になったのは、質問者から「昨年であれば」という言葉が2度飛び出したことだ。
 
 これは風間前監督率いるチームが魅力的なサッカーをしていて、今季のチームが否応なく、それとの比較にさらされることを意味する。鬼木さん、大変だ。
 
 水原戦の川崎は、不用意なバックパスからゴールを脅かされるなど守備が不安定で、攻めてもゴールの予感が漂う場面は少なかった。
 
 これには大久保が抜けた、家長が馴染んでいない、エウシーニョが負傷離脱したといった、様々な理由が挙げられる。ただ、選手個々の移籍や負傷は致し方ないこと。私がもっとも気になったのは、川崎独特のリズムが消えてしまったということだ。
 
 いいときの川崎はラインを大胆に押し上げ、ボール保持者の前にたくさんの選択肢を作っていた。そして短いパスを回しながら、不意に縦パスを入れ、そこに3人目、4人目が次々と絡んで敵の守りを崩し切る。
 
 その崩しが、水原戦ではほとんど見られなかった。
 敵陣深くで探るようなパス回しをしたのも、終盤に2、3度あったくらい。サポーターたちが「おい! おい! おい!」と威勢よく叫ぶ場面は少なかった。
 
 シーズンは始まったばかりで、オフの短かった川崎が躓くのは致し方ない、という見方もできる。負けたわけでもない。
 だが記者会見がそうだったように、外野は温かくは見てくれない。結果が出ない試合が続けば、鬼木監督、さらには新加入の家長への風当たりは確実に強くなる。私も結局、去年との比較ばかりいるように、「去年であれば」の声は消えるどころか大きくなっていくだろう。
 
 川崎がリズムを取り戻すには、どうすればいいのか。
 もちろん、これだという答えはない。だが、ボランチか、トップ下はともかく、中村を中心に据えることは有効ではないか。
 
 川崎がリズムを失ったのは、攻撃のタクトを揮う中村が左サイドで起用され、ボールに絡む機会が少なかったことが大きい。
 
 ただ、これはやむを得ない配置転換だろう。
 大久保が抜けたいま、小林と家長で2トップを構成し、配球役をエドァルド・ネットに託すと、中村は左サイドに回ることになる。
 
 だが中村はもう10年以上、川崎のリズムを創り出してきた名手だ。周りの事情で中村を適任ではないところにコンバートするのではなく、中村に本来の役目を与え、そこからチームを固めていく方がいいのではないか。
 
 つまり、中村に傾きかけたチームの再建を託すということ。新監督にとっては難しい決断だが、経験豊かなベテランに仕切りを任せるのは現実的な解決策だと私は思う。

取材・文:熊崎 敬(スポーツライター)
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