欧州で重ねた年輪と代表10番の重み。苦境の香川真司が闘い続けられる理由

2017年02月13日 安藤隆人

「10番を背負う重さを知っている人は少ない」

今シーズンは所属するドルトムントで苦境に立たされる香川。しかし、復活に向けて、サッカーへのストイックな姿勢は変わらない。(C) Getty Images

 日本の10番、香川真司が苦しいシーズンを送っている――。
 
 所属するドルトムントで思うように出番を得られず、不遇の時期を過ごしていると誰もが思っているだろう。確かに今季の香川の立場は、決して楽観視できるものではない。
 
 18歳のフェリックス・パスラック、19歳のウスマヌ・デンベレ、21歳のユリヤン・ヴァイグル、23歳のラファエル・ゲレイロら若手の台頭によって、香川だけでなく、マリオ・ゲッツェやアンドレ・シュールレといった各国の代表選手ですら定位置を確保できない状況だ。
 
 チームが成長していくためには定期的な『新陳代謝』と『世代交代』が必要だ。ドルトムントは今その最中にあると言って良い。現在の香川にとって、それは必ずしもプラスに働いているわけではないが、『プロの世界の常』と考えれば、こういう時期はいずれにせよやって来るものだ。
 
 重要なのは今の境遇を憂うことではなく、選手自身が何を考え、現状をどう打開しようとしているかだろう。香川自身もかつてはこうした新陳代謝や世代交代の恩恵を受け、それをチャンスとして活かしてきたわけだが、再びチャンスが巡ってきた時に何ができる選手になっているか。そこがプロフェッショナルとして必要な要素になって来る。
 
 これまでも多くの選手が一時の不遇をくぐり抜け、その後復活を遂げて来た。ドルトムントで言えば、チーロ・インモービレは2014-15シーズンに絶不調に陥り、わずか1シーズンでドルトムントを後にした。しかし、今季はセビージャ、トリノを経て、古巣のラツィオに戻ると、好調ぶりをアピール。持ち前の得点感覚をいかんなく発揮している。
 
 では、香川は今、何を考えて日々を過ごしているのか。今年の3月17日で28歳となる彼は、キャリア的にはベテランとも呼べる域に差し掛かるだけに、その境遇を不安視する声がより大きいのは頷ける。
 
 だが、「自分だけは常に見失わないようにしている」と語る彼の、ストイックにサッカーに打ち込む姿勢は、プロになる以前からずっと変わっていない。根っからの『サッカー小僧』なのだ。
 
 プレーするだけでなく、Jリーグ、ヨーロッパ各国のリーグ、カップ戦、そしてチャンピオンズ・リーグなど、時間さえあれば常にサッカーを観ている、まさしく「サッカー中心」の生活。たとえ試合に出られなくても、モチベーションを落とすことなく、黙々とサッカーに向き合い続ける。14歳の頃から日本代表の10番としてプレーする現在まで、香川真司という人物を見続けているが、そうしたストイックな姿勢を失った時期は一切無いと言い切っても良い。
 
 だからこそ、今の境遇にあっても、香川は自分の置かれた状況から一際目をそらしていない。ある代表合宿の際に、つぶやいた一言が印象に残っている。
 
「世間の目や周りの目は自分に厳しいのは分かっている。でも、10番を背負う重さを知っている人は少ない。自分なりにその重さを受け止めて、周りを気にせずにサッカーに集中したい。やって来たことをピッチの上で出す。それだけなので」
 
 代表の10番という責任ある立場を経験した者だけが語れる、重みのある一言だ。そんな言葉のなかにも、サッカーへの真摯な姿勢が伝わってくる。
 

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