【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』其の九十九「サッカーはバランスの上に成り立っていることを再確認すべし」

2016年12月01日 小宮良之

無邪気な試みには必ずと言っていいほど落とし穴が待っている。

圧倒的な攻撃で相手をねじ伏せるバルサだが、その理由は彼らが強力な攻撃陣を擁しているから、というだけではない。 (C) Getty Images

「大量得点で勝ちたい」
 
 格下を相手にする時、勝利のみでは飽き足らない。"大差をつけて勝つことで正当性を示せる"。その思想が、日本スポーツ界には根強くある。
 
 相手をこてんぱんに打ちのめす。それによって戦う気持ちを挫く、それはひとつの戦いの定石と言えるだろう。
 
「敵わない」。敗者をひれ伏させることで、次回の対戦では圧倒的な優位に立てる。それは心理戦でもある。勝者はその自信を増幅させることによって、さらに破竹の勢いを得られるのだ。
 
 しかし、サッカーというスポーツにおいて、これは危険な思想となりかねない。
 
 大量得点を取ることそのものは、もちろん悪ではない。繰り返すが、取れるだけ取ることで心理的なアドバンテージになる。また、次に対戦する敵への示威ともなる。
 
 ただし、"とにかく得点を取りに行こう"という無邪気な試みには、必ずと言っていいほど落とし穴が待っている。
 
 実力差を前に、嵩にかかって得点を狙う場合、攻める枚数は増える。相手が押し返すことができず、押し込んだままの状況になるだけに、必然とも言える。
 
 しかし、そうした一方的展開は必ず、雑さと隙を生む。攻撃精度が低くなり、逆襲された場合のことをすっかり忘れてしまう。いつの間にか、7、8人がペナルティエリア近辺に入るようなイノセントな攻撃を仕掛け続け、意識が前のめりになってしまう。
 
 それが身についてしまうと、致命的な不具合を生じさせる。
 
 U-16アジア選手権、日本U-16代表はグループリーグでベトナム、キルギス、オーストラリアに7-0、8-0、6-0と大勝を収めている。明らかにレベルの差のある相手だった。その勢いは大事だが、準々決勝のUAE戦は雨あられのシュートを打ちながら、1-0という僅差の勝利だった。
 
 攻撃の粗さが、この試合ではもろに出た。そして準決勝のイラク戦では、守備の綻びを広げられて大量4失点。2点を取り返したが、2-4で完敗した。
 
 ユース年代だけに、メンタルの影響が濃厚に出る。
 
 言うまでもないが、平衡感覚を欠いた心理状況は正しくない。ピッチでは常に相手の攻撃に備え、攻守がバランスを保ち、連動することが不可欠となる。

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