【宮本恒靖インタビュー|前編】なぜ育成現場から新たな挑戦をスタートさせたのか?

2016年11月07日 川原 崇(高校サッカーダイジェスト)

「スタートさせるならガンバで、というのはありました」

中学生の指導を経て、現在は名門・G大阪ユースで監督を務める。写真:川原崇(高校サッカーダイジェスト)

 ガンバ大阪、レッドブル・ザルツブルク、そしてヴィッセル神戸でキャリアを積み上げ、日本代表の主将として2度のワールドカップ出場を果たした。現役引退後もFIFAマスター入学やテレビ解説、さらには専門誌編集長を務めるなど話題に事欠かなかった稀代のサッカー人、宮本恒靖。40代を目前に控えたいま、彼は指導者として研鑽を積んでいる。

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 ガンバ大阪の13歳チームの指導を経て、今春にはかつて自身も籍を置いたユースチームの監督に就任した。なぜ彼は、育成畑から指導キャリアをスタートさせたのか。直面する苦悩と葛藤、思い描く将来図とはいかなるものなのか。そして観察眼に優れる男は、ワールドカップ予選を戦ういまの日本代表をどう見ているのか──。
 
 ツネイズム、2016年アップデート版をお届けする。

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サッカーダイジェスト(以下SD) 昨年1月に古巣のガンバ大阪に指導者として帰還しました。およそ1年間はジュニアユースで13歳の選手たちを教え、今年の春からはユースチームの監督を務めています。そもそも、なぜ指導者の道に進もうと考えたのでしょうか。

宮本恒靖(以下TM) もっと日本でサッカーが大きな存在になってほしい。自分の中で基軸としてあるのが、そんな想いです。そのために自分になにができるか。いまは身体が動くし、自分のプレーヤーとしての経験を伝えられるのはひとつの強みやと思うんです。自分自身も指導者をイメージしながらキャリアを作ってきたところもありますし、そこをいまはやりたいと思ってます。

SD 指導キャリアのスタート地点はさまざまです。やはりガンバへの愛着が強かった?

TM スタートさせるならガンバで、というのはありました。

SD なぜあえて、育成年代から始めようと考えたのでしょうか。

TM 本格的に指導者を目指すとして、どういうスタートがいいのかはよく考えました。何人かの方に相談もしたんですけど、育成のところを経験したほうがいいという意見は多かったですね。去年「13」を見て、今年は「18」を指導しています。実際に現場でいろいろ感じるものもあるし、公式戦やJユースカップのような大会に来れば、例えば運営面で勉強になることもある。そこにいるからこそ分かる部分ですよね。立場が変われば視点も変わりますから。

SD この年代のチームを率いる指導者は、つねに結果と育成のバランスを考えなければいけません。難しさは感じますか?

TM それはあります。分量に違いはありますけど、じゃあ13歳は勝たなくていいかと言えばそれは違うと思うし、選手も僕も勝ちたいわけで。育てるほうに重きを置くのは何割かとか、いろいろ試行錯誤しながら取り組んでますね。

SD 例えばツネ監督は、試合前のミーティングで選手たちにどんな言葉をかけるのでしょう。

TM 試合前ですか? 短いですよ。心構え、自分たちがこの試合でやるべきこと、個々にやってほしいこと。で、締めて終わり。そんな感じですよ。

SD テレビ解説でも本領を発揮していましたが、伝えたいことを噛み砕いて説明するのが得意ですよね。そのあたりはスムーズなのでは?

TM いやそれはまた違いますし、まだまだですよ。もっと分かりやすくというか、どう話せば選手に落とし込めるのかについては、もっと磨いていかなあきませんね。

SD ご自身はディフェンダー出身です。例えばフォワードの選手にはどんなアドバイスをするのですか?

TM ディフェンダーとしてはこういう動きをされたら脅威に感じるとか、逆に怖くないとか、そういう目線で話す時もあれば、これまでの経験や解説者として分析してきたなかで積み上げた考えを、伝える時もありますね。

SD なにか特別な指導メソッドを取り入れているとか? モウリーニョやグアルディオラだったり、バルセロナの教本を参考にしたりとか。

TM これっていうのはなくて、もうすべてですよ。いろいろ経験してきたもの、ごちゃまぜですね。ユース時代の指導者やった上野山(信行)さんに始まり、ヘルト、クゼ、アントネッティ、早野(宏史)さん、西野(朗)さん、トラパットーニ。それに日本代表のトルシエやジーコもそう。全部見てましたから。18歳の時にこういう練習やったなぁとかいまでも覚えてますし、いずれは指導者に、と思い描きながら練習メニューとかを見ていたところも少なからずあるので。
 

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