連載|熊崎敬【蹴球日本を考える】PK献上シーンに見る日本人の「素直な駆け引き」問題

2016年09月02日 連載・コラム

日本の日常生活では駆け引きをする場面が少ない。

結果的にエリア内でファウルをとられた大島の対応がクローズアップされることになったが、日本人の駆け引きの不得手さは今に始まったことではない。(C) SOCCER DIGEST

 UAEに逆転を許し、日本代表のアジア最終予選は黒星スタートとなった。ホームでのワールドカップ予選の敗戦は97年の韓国戦以来、実に19年ぶりのことだ。

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 ラインを越えたシュートが得点と認められなかった不運はあったが、日本代表が勝利に値するプレーを見せられなかったことは事実だ。
 
 ふたつの失点は、いずれもミスが発端となった。
 同点FKは大島のゆるいパスが発端に。ここからボールを失い、UAEの逆襲を受けることになった。
 
 逆転PKは、自陣ゴール前で長谷部がボールを失ったことがきっかけに。ペナルティエリア内で3対1と有利な局面を作りながらも、大島が突破にかかった敵の足を引っ掛けてしまった。
 
 サッカーはミスがつきものだが、やっていいミスとやってはいけないミスがある。特にPKを献上した大島のファウルは、やってはいけない類のミスだった。敵がPKを狙っているのは明らかだったというのに、誘われるがままに足を出してしまったからだ。
 
 大事な試合でなぜ、こういうプレーが出てしまうのか。
 それはペナルティエリア内でファウルを誘うようなプレーが、日本では少ないからではないだろうか。部活はもちろん、Jリーグでも素直な駆け引きに終始しているから、肝心なところで敵に騙されてしまうのだ。
 
 このことについては、ハリルホジッチ監督もしばしば言及している。
「自陣ゴール前でファウルを犯すな」
「敵のゴール前でファウルを誘え」
 残念ながら、監督の注意は生かされなかった。理屈では分かっていても、ピッチ上では思い通りに行かないものだ。
 
「素直な駆け引き」問題は、大島に限ったことではないし、日本サッカー界だけの問題でもないだろう。これは私も含めた日本人全体が陥りやすい問題だと言える。
 
 というのも、日本の日常生活では駆け引きをする場面が少ないからだ。例えば店によっては品物の値段が異なることはあるものの、私たちはほとんど値切り交渉をすることがない。レジに並んで、言われた金額を払うだけだ。
 
 これが海外に出ると、交渉だらけになってくる。モノの値段はあってないようなもので、ふっかけてくることも多いからだ。日本と同じ調子でいわれたままに払っていたら、損をすることになる。
 
 私もいろんなところで騙されてきたが、近年では用心深くなり、若いころに損した分を取り返そうとがんばっている。そうした駆け引きは、なかなか面白いものだ。そういう国になったら、日本代表ももうちょっとしたたかになるのではないだろうか。レジの行列は長くなるかもしれないが。
 
 この最終予選で日本代表は5つの国を旅する。いずれにしろ、一筋縄でいかない国々。ホームで騙されてしまうのだから、くれぐれも注意してかからなければならないだろう――。
 
文:熊崎  敬
 
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