プレミア強豪から2戦連発でも…なぜ昨季MVPの日本代表MFは先発で起用されないのか。ファンからの人気は相変わらずだが「フィジカル不足」を指摘する声も【現地発】

2025年12月28日 松澤浩三

「負け続けて降格するよりはマシ」

今季はまだ先発が7試合しかない田中。(C)Getty Images

 12月20日。リーズ・ユナイテッドの本拠地エランドロードは満員だった。

 試合前からサポーターのボルテージが非常に高く、熱くなっているのが伺えた。休暇を取る人が増えるクリスマス前の最後の試合。20時にスタートするナイトゲーム前に酒を煽って頬を赤らめながらスタジアムを訪れたファンたちの興奮度は、すでに最高潮近くまで上昇しているようだった。

 大声援に包まれてキックオフしたこの試合、ホームチームのスターティングイレブンには田中碧の名前は含まれていなかった。今月に入ってからチェルシー、リバプールとの両試合で連続得点を挙げるなど注目を浴びていた背番号「22」だったが、前節のブレントフォード戦ではインパクトを残せずに途中交代を強いられた。

 その試合後、地元紙ヨークシャー・イブニング・ポストは日本代表MFにチーム最低となる4点を与え、同紙で番記者を務めるグレーム・スミス氏は「レイジーな場面もあるなど、酷かった」と低評価をつけていた。

 迎えたクリスタル・パレス戦。田中がスタメンを外れたこの試合で、リーズは積極的なプレスからガツガツと相手に当たり、空いたスペースを埋めていく。激しいプレーからのショートカウンター、加えて隙を見てはディフェンダーやゴールキーパーのルーカス・ペリが一気に前線へロングボールを入れる作戦を取っていた。
 
 11月下旬のマンチェスター・シティ戦。2-3と惜敗した試合で、後半から流れを掴むことにつなげたのが、3-5-2(守備時には5-4-1になる)をベースにしたこの戦術だった。以降、ダニエル・ファルケ監督は今月に入ってからもこのフォーメーションを継続しており、5日のチェルシー戦を3-1で制すると、翌節の昨季王者リバプール戦も3-3の引き分け。さらに前節も終盤に引き分けに持ち込むなど、上位チームとの連戦を含む年末の難しいフェーズの中で、勝点5を積み重ね一定の成果を見せていた。

 肉弾戦を積極的に取り入れ、ある種"力業"をベースに優勢に持ち込むスタイルである。通常、ポゼッションフットボールを"善"とするホワイツサポーターだが、「負け続けて降格するよりはマシ」とばかりに、新たなプレースタイルを受け入れているのが分かった。

 パレス戦も同様で、優勢に試合を進めるイレブンの姿を目の当たりにしたファンの熱気とともに、12月の寒空ながら、スタジアム内の温度も高くなっているようだった。

 大声援を背に序盤からペースを掴んだリーズだったが、前半途中まではパレスの攻撃陣、特にジェレミ・ピノ、ジャン=フィリップ・マテタ、エディ・エヌケティアの連携によるクイックカウンターに苦しめられる場面が見られた。しかし連戦で疲弊しているのが明らかな相手の攻撃をしのぐと、その後リーズがボールを支配する時間帯が次第に長くなっていく。だが決定機がなかなか訪れず、筆者は「こんな状況でこそ田中が力を発揮できるのではないか?」とやきもきしていた。

 ところが38分、キャプテンのイーサン・アンパドゥのロングスローのこぼれ球を今季から加入したエース、ドミニク・キャルバート=ルーウィンが押し込んで先制。さらに前半アディショナルタイムに、再びアンパドゥのロングスローをつなげて最後はキャルバート=ルーウィンが頭で沈めてこの日2点目。リードを広げて後半を迎えた。
 

次ページウォーミングアップを始めると、“田中チャント”がこだました

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