【北中米W杯出場国紹介|第2回:イングランド】組織的に走るタレント集団。明確な哲学のもとで機能する“トゥヘル式トランジション”

2025年11月07日 河治良幸

4-2-3-1をベースに、試合展開に応じて可変

予選で破竹の6連勝。欧州一番乗りで北中米W杯出場を決めたイングランド。(C)Getty Images

 フットボールの母国イングランド。ボビー・チャールトン、デイビッド・ベッカム、フランク・ランパード、スティーブン・ジェラード、ウェイン・ルーニー、そしてハリー・ケイン――いつの時代も才能に満ちたワールドクラスの名手が揃いながら、世界の頂に立ったのは1966年、自国開催のワールドカップだけだ。それから60年。再び黄金のトロフィーを掲げるための準備は、静かに、しかし着実に整っている。

 2026年北中米W杯の欧州予選で、イングランドは欧州勢の中で最速となる本大会出場を決めている。予選グループKの第6節・ラトビア戦を5-0で制し、6連勝&6戦連続無失点と完璧な内容で北中米行きのチケットを手にした。

 とりわけ守備陣の安定感は群を抜き、限られた活動期間の中でも、トーマス・トゥヘル監督の緻密な戦術が見事に機能しているのは、選手たちが元々持っている戦術眼をうまく結び付けているからだろう。

 最終ラインの軸となるのは、経験豊富なジョン・ストーンズだ。さらにエズリ・コンサ、マーク・ゲイといった新世代のセンターバックが周囲を固め、個人能力と組織的な対応力を兼ね備えた布陣を形成している。

 いずれもプレミアリーグの激しい強度の中で鍛え上げられた猛者たちであり、対人戦・ビルドアップ・戦術理解の三拍子が揃う。6試合で無失点という数字は、偶然ではない。
 
 中盤にはデクラン・ライスとエリオット・アンダーソンが並び、現代フットボールらしい強度を実現しながら、守備と攻撃のバランスを高い水準で維持している。ライスはボール奪取のスペシャリストとして知られ、鋭い読みに裏打ちされたインターセプトは絶品。アンダーソンは正確なパスに加えて、縦への推進力と運動量でチームのテンポを操る。彼らが築く中盤の秩序が、前線の自由を保証しているのだ。

 チームの象徴的な存在は言うまでもなく、キャプテンのハリー・ケインだ。最も厳しい戦いが予想されたアウェーのセルビア戦で、5-0勝利の口火となる先制点を奪うなど、欧州予選でも重要なゴールを決めてきた。

 得点だけでなくポストプレーやゲームメイクにも秀でたケインは、チームの精神的支柱としても頼れる存在だ。「イングランド代表は何よりも大切なものだ」と語る彼の力強い言動は、間違いなくチームの求心力につながっている。

 ドイツ出身のトゥヘル監督は、イングランド代表ではスウェーデン人のスベン=ゴラン・エリクソン、イタリア人のファビオ・カペッロに続く、3人目の外国人監督となる。緻密な分析と柔軟な戦術構築で知られる智将だ。

 ここまで4-2-3-1をベースとしながら、試合展開に応じて可変的に形を変える。もちろん欧州予選より、相手が多種多様となる本大会に向けては、選手選考も含めて柔軟な戦術を再構築していくはずだ。
 

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