なぜマンチーニとインテルは、開幕直前になって契約解除に至ったのか?

2016年08月09日 手嶋真彦

ここまでの補強はほとんど蚊帳の外に置かれていた。

会長のトヒル(左)、新オーナーのジェン・ジンドン(中央)、そして監督のマンチーニ(右)。3者の足並みが揃わず、ついに関係が崩れた。(C)Getty Images

 イタリア時間の8月8日に正式発表されたロベルト・マンチーニとインテル・ミラノの契約解除は、関係破綻の末の避けがたい必然に映る。双方が徐々に不信感を募らせ、とうとう限界に達したのだ。
 
 今夏のプレシーズンキャンプが始まって以来、マンチーニが垣間見せていた大きな不満は、事実上の強化権限剥奪が看過できない原因となっていたはずだ。移籍金ゼロのエベル・バネガ(バレンシアから)とジャネル・エルキン(フェネルバフチェから)、キャッシュによる支出が実質200万ユーロ(約2億4000万円)のクリスティアン・アンサルディ(ジェノアから)はいずれも、ファイナンシャル・フェアプレー(FFP)の制約によって強いられた、ある意味では妥協の新戦力だった。獲得を決めたのはクラブ側であり、マンチーニは蚊帳の外に置かれていたのだ。
 
 マンチーニはタレント依存型の監督だ。モチベーターではあっても、戦略家もしくは戦術家とは見なせず、新戦力獲得の意思決定から疎外されると、そのまま死活問題に直結してしまう。マンチェスター・シティ監督時代の教え子の獲得案は、33歳のトゥーレ・ヤヤも31歳のパブロ・サバレタも、一説によれば"高齢"を理由に却下された。
 
 アントニオ・カンドレーバはマンチーニのリスト上位に名前があったと言われる待望のサイドアタッカーだが、ラツィオからの移籍が決まった8月3日の段階では、もはや引き返せない程度にまでクラブ側との溝が深まっていたのだろう。
 
 マンチーニはFFPによる制約自体は受け入れており、大物放出もやむをえないと腹をくくっていた節が、その言動から窺える。ナポリやアーセナルが狙っているとされるマウロ・イカルディの売却には、むしろ肯定的だったという話もある。
 
 インテルはUEFAに対し、累積赤字の解消を書面で約束しており、その期限まで1年を切っている。ナポリからの5000万ユーロ(約60億円)+マノーロ・ガッビアディーニというオファーが取り沙汰された通りだったとして、それを呑んでいれば、FFP違反による処罰回避のシナリオが描けていたはずだ。
 
 しかし、クラブ側はイカルディ売却には応じない構えを崩しておらず、経営面の不安を抱えたままシーズンインするリスクは小さくないという判断が、マンチーニにあったとしても不思議はない。
 
 そもそも巨額の収入が見込めるチャンピオンズ・リーグ(CL)の出場権を手に入れていれば、また違った展開となっていたかもしれない。2015年夏のマンチーニは、ほぼ希望通りと見られる陣容を用意されていた。にもかかわらず、昨シーズンのセリエAをCL圏外の4位で終えたのだ。強化権限の事実上の剥奪へ、自ら種を撒いていたとも言えるだろう。

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