神戸戦で痛恨のファンブル。あふれる涙。大きなショックも「いつまでも引きずるのは違う」と、東洋大の2年生GKは再び立ち上がった

2025年09月12日 安藤隆人

自分を責めた――なんでこうなった...

総理大臣杯で東洋大は決勝に進出。磐井は「チームメイトやスタッフに恩返しをする大会に」と意気込む。写真:安藤隆人

 ミスをした瞬間、頭の中が真っ白になった――。

 8月6日の天皇杯4回戦、東洋大学はJ1を連覇中のヴィッセル神戸と敵地ノエビアスタジアムで戦った。2回戦で柏レイソル、3回戦でアルビレックス新潟と、史上初めてJ1の2クラブを撃破してきた東洋大は、神戸戦でも1-1で延長戦までもつれ込む大熱戦を演じていた。

 しかし、悪夢は延長後半アディショナルタイムに待っていた。神戸のDF広瀬陸斗がクロスを上げる。落下地点に入ったGK磐井稜真が両手を伸ばして難なくキャッチするはずだったが、ボールは磐井の両手を滑るように後方にこぼれ、詰めていたFW宮代大聖が容赦なくゴールに突き刺した。

 まさかのファンブル。失点の瞬間、磐井はその場に崩れて動けなかった。痛恨のミスに、タイムアップのホイッスルが鳴り響いても、2年生守護神はあふれる涙を抑えられなかった。

 そこにチームメイトだけでなく、神戸のGK新井章太も真っ先に駆けつけて激励の言葉をかけた。柏戦でスタメンに抜擢されて公式戦デビューを飾り、J1の3クラブとの激戦で、最後までゴールを守り抜いた。東洋大の快進撃の立役者に対して、リスペクトのある行動だった。

「今まで、あからさまに失点に繋がるミスは記憶にないので、正直、かなりショックというか、『なんでこうなってしまったのか』と自分を責めました」
 
 ショックは大きかった。だが、あのピッチで仲間や新井がかけてくれた言葉が、間違いなく心の支えになった。

「チームメイトや新井選手が、あれだけたくさんの声をかけてくれたにもかかわらず、自分がいつまでも引きずるのは違うと思ったんです。反省すべきところは反省して、次に切り替えていくのが、自分がすべきことだと考えるようになりました」

 もちろん、切り替えるのに数日はかかった。それでも周りの温かさに背中を押され、もう一度、自分を見つめ直したことで、自分がこれまで積み上げてきたものの大切さを再認識したことで、磐井の中で再び火が灯った。

「僕はサイズ(177センチ)がない分、大きいゴールキーパーと比べると不利になる。でも、そこを覆す技術や他の能力を磨かないと、自分は上には行けないと常に思ってやってきました。

 高校の時、東京ヴェルディユースでずっとビルドアップを求められてきて、攻撃に参加する部分や背後のスペースの広範囲をカバーする技術は、自分の特長としてやってきました。他の大きなゴールキーパーと差をつけるための努力をやってきたからこそ、今があると思っています」

 そのなかでハイボールの処理は強い意識を持ってやってきた。サイズを補うだけの空間認知能力やキャッチの技術も、足もとを磨くなかでコツコツと積み重ねてきた。

「サイズのことは、やっぱりどこに行っても言われます。でも、それは変えられる部分ではない。変えられないものだからこそ、変えられるものを見つけてやるしかない。それはずっと大事にしています」
 

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