悔しき2024年を経て
ACLエリートで逞しい戦いを見せた川崎。脇坂はチームを牽引した。(C)J.LEAGUE
偉大な先輩たちがどうしても越えられなかったACLベスト8の壁。2025年、歴史を変えたチームにおいて、キャプテンとして、そして伝統の背番号14を付け、クラブ初の決勝の舞台に立ったのがMF脇坂泰斗である。
先日、チェルシーが戴冠する形で幕を閉じた、規模も賞金も何十倍にも膨れ上がったクラブワールドカップ。その世界の舞台に通じるのがACLエリート(ACLE)だ。2024-25年大会からこちらも新フォーマットとなったアジアの頂点を決める戦い。その第1回大会で準優勝を果たした川崎の戦いぶりを備忘録の意味を込めて振り返るとともに、今季から長谷部茂利新体制となった川崎のここまでの戦いぶりも語ってもらうインタビューである。(第1回/全3回)
――◆――◆――
昨年末のホーム最終戦。脇坂は溢れ出る涙を止めることができなかった。退任が決まっていた恩師・鬼木達監督の下でのラストマッチ。自身は人生初の筋肉系の怪我でピッチに立てなかった。それでも試合後に"オニさん"から声をかけられた。
「ヤスト、良いキャプテンになれ」
2024年、川崎は無冠に終わり、リーグも8位。結果を残せず、鬼木監督がクラブを去る結末となってしまった。悔しすぎる想いだっただろう。一方で、シーズンをまたがって戦うACLEは、リーグステージの6戦で4勝2分。ラウンド16進出をほぼ手中に収め、翌年の残り2試合を戦うことになっていた。"オニさん"からの最後の置き土産である。
2025年、川崎は長谷部茂利新監督を招聘し、再出発を切った。監督交代は実に8年ぶりだ。不安と期待が入り混じるシーズンイン。沖縄でキャンプを張るチームからはやや心配な声も伝わってきていた。J2やJ3チームとの練習試合で芳しい結果を残せずにいたのだ。
先日、チェルシーが戴冠する形で幕を閉じた、規模も賞金も何十倍にも膨れ上がったクラブワールドカップ。その世界の舞台に通じるのがACLエリート(ACLE)だ。2024-25年大会からこちらも新フォーマットとなったアジアの頂点を決める戦い。その第1回大会で準優勝を果たした川崎の戦いぶりを備忘録の意味を込めて振り返るとともに、今季から長谷部茂利新体制となった川崎のここまでの戦いぶりも語ってもらうインタビューである。(第1回/全3回)
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昨年末のホーム最終戦。脇坂は溢れ出る涙を止めることができなかった。退任が決まっていた恩師・鬼木達監督の下でのラストマッチ。自身は人生初の筋肉系の怪我でピッチに立てなかった。それでも試合後に"オニさん"から声をかけられた。
「ヤスト、良いキャプテンになれ」
2024年、川崎は無冠に終わり、リーグも8位。結果を残せず、鬼木監督がクラブを去る結末となってしまった。悔しすぎる想いだっただろう。一方で、シーズンをまたがって戦うACLEは、リーグステージの6戦で4勝2分。ラウンド16進出をほぼ手中に収め、翌年の残り2試合を戦うことになっていた。"オニさん"からの最後の置き土産である。
2025年、川崎は長谷部茂利新監督を招聘し、再出発を切った。監督交代は実に8年ぶりだ。不安と期待が入り混じるシーズンイン。沖縄でキャンプを張るチームからはやや心配な声も伝わってきていた。J2やJ3チームとの練習試合で芳しい結果を残せずにいたのだ。
もっとも多くのシーズンを戦ってきた脇坂は冷静だった。
「監督やスタッフが代わったことで、やはり良い緊張感がありました。もちろん監督が代われば、やることも、トレーニングも、ゲームへのアプローチも変わる。そこに早く対応し、自分の良さをアピールしないといけないと、オニさんの時も必死でしたが、例年とはまた違うヒリヒリ感がありました。
一方で今年はメンバーはほぼ変わらなかったので、新しく来た選手と合わせる時間を短縮できたのは良かったです。まして今年はリーグ開幕が早く、その前にACLの試合も組まれていたので、急ぐ必要があった。各選手がお互いの特長を探りながらやるのではなく、すぐに戦術的なアプローチや、自分の良さを出す作業に集中できたのはプラス材料でした。
練習試合で結果が出ないことを気にしている選手もいました。ただ、沖縄は風も強いし、ピッチの大きさも少し異なる。一方でやりたいことをやれていなかったわけではない。チームとしてやろうとしていることを、みんなが表現しようとしていた。それこそ開幕まで時間がないなかで、2部練習のなかで組み込まれたゲームは難しいもの。だから練習試合の結果を見て皆さんはやきもきしていたかもしれませんが、僕はゲームを進めるごとにやれるという感覚を積み上げていました」
それは経験則からくるものだったのか。
「というよりも、表現が難しいのですが、オニさんの頃もしっかり戦い方を整理して臨んいましたが、例年より守備面など土台をしっかり作っていたと言いますか...。例えば(圧倒的な成績でリーグを制した)2020年、21年などは、戦力的に充実していた分、スペシャルなものを出すためのキャンプという印象でした。もう誰が出るかも分からないぐらいの顔ぶれでしたし、突き抜けるためのキャンプと言いますか。でも毎年、そういうわけにはいきません。
オニさんの下でもキャンプでチームのやり方を整えて取り組んでいました。20年も守備のやり方を変え、それがハマったら次の段階へという形で、練習試合で圧倒することができました。一方で今年は昨年の脆さみたいな部分(リーグワースト7位の57失点)をまず減らす作業から入りました。そしてリーグ2位だった得点数を1位にするためにバリエーション増やすことがテーマでした。ショートパスや連係からの崩しを活かすためにも、外からの展開、クロスからのバリエーションも増やそうと、両方に着目していました。守備を良くしようとすると、攻撃はそれを超えようとする。相乗効果も生まれていましたね。
だから練習試合ではちょっと得点を取れなかったですが、失点しないような守備設計はできていました。昨年はどうしても2点取っても3点、4点、5点を取られてしまうゲームがあった。そこをまず改善できたのは大きかったですし、(トップ下などで)前線から守備をやる身として、僕がこうプレスをかけたら、後ろからはこう来てほしいみたいな、連係してほしい部分があった。それを出しやすくなりましたし、僕らが効果的に追う分、後ろの選手が奪いやすくなる意思統一ができ始め、キャンプの最後の練習試合では思いどおりに奪えたシーンが多かったんです。攻撃が川崎の特長ですが、この守備を身に付けたらショートカウンターで多くの点を取れるんじゃないかという手応えがありましたね」
「監督やスタッフが代わったことで、やはり良い緊張感がありました。もちろん監督が代われば、やることも、トレーニングも、ゲームへのアプローチも変わる。そこに早く対応し、自分の良さをアピールしないといけないと、オニさんの時も必死でしたが、例年とはまた違うヒリヒリ感がありました。
一方で今年はメンバーはほぼ変わらなかったので、新しく来た選手と合わせる時間を短縮できたのは良かったです。まして今年はリーグ開幕が早く、その前にACLの試合も組まれていたので、急ぐ必要があった。各選手がお互いの特長を探りながらやるのではなく、すぐに戦術的なアプローチや、自分の良さを出す作業に集中できたのはプラス材料でした。
練習試合で結果が出ないことを気にしている選手もいました。ただ、沖縄は風も強いし、ピッチの大きさも少し異なる。一方でやりたいことをやれていなかったわけではない。チームとしてやろうとしていることを、みんなが表現しようとしていた。それこそ開幕まで時間がないなかで、2部練習のなかで組み込まれたゲームは難しいもの。だから練習試合の結果を見て皆さんはやきもきしていたかもしれませんが、僕はゲームを進めるごとにやれるという感覚を積み上げていました」
それは経験則からくるものだったのか。
「というよりも、表現が難しいのですが、オニさんの頃もしっかり戦い方を整理して臨んいましたが、例年より守備面など土台をしっかり作っていたと言いますか...。例えば(圧倒的な成績でリーグを制した)2020年、21年などは、戦力的に充実していた分、スペシャルなものを出すためのキャンプという印象でした。もう誰が出るかも分からないぐらいの顔ぶれでしたし、突き抜けるためのキャンプと言いますか。でも毎年、そういうわけにはいきません。
オニさんの下でもキャンプでチームのやり方を整えて取り組んでいました。20年も守備のやり方を変え、それがハマったら次の段階へという形で、練習試合で圧倒することができました。一方で今年は昨年の脆さみたいな部分(リーグワースト7位の57失点)をまず減らす作業から入りました。そしてリーグ2位だった得点数を1位にするためにバリエーション増やすことがテーマでした。ショートパスや連係からの崩しを活かすためにも、外からの展開、クロスからのバリエーションも増やそうと、両方に着目していました。守備を良くしようとすると、攻撃はそれを超えようとする。相乗効果も生まれていましたね。
だから練習試合ではちょっと得点を取れなかったですが、失点しないような守備設計はできていました。昨年はどうしても2点取っても3点、4点、5点を取られてしまうゲームがあった。そこをまず改善できたのは大きかったですし、(トップ下などで)前線から守備をやる身として、僕がこうプレスをかけたら、後ろからはこう来てほしいみたいな、連係してほしい部分があった。それを出しやすくなりましたし、僕らが効果的に追う分、後ろの選手が奪いやすくなる意思統一ができ始め、キャンプの最後の練習試合では思いどおりに奪えたシーンが多かったんです。攻撃が川崎の特長ですが、この守備を身に付けたらショートカウンターで多くの点を取れるんじゃないかという手応えがありましたね」